第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
見た事もない形の生き物。
生臭い匂いの充満した室内。
咥えられた腕…
その指先には見覚えのある指輪。
父が母に贈った指輪だ…
ということは、
ソレは
考えたくはないけれど
母の腕という事で
そのショックたるや
もう
例えるものも見つけられない程で…
私を凝視める異形のものが、
両腕をスッと開いた。
手
がない。
代わりに
大きなカマが付いている…。
あの大鎌は、
私を切り裂くのかな
他人事のようにその様子を眺めながら
そう思った時
大きく振り下ろされた大鎌。
そこから放たれた空気の刃が
私へ向かってくるのがわかった。
わかったのに…
まったく動く事ができなくて
私はソレの直撃を受けたはずだった。
多分、両親がやられた事が
頭のどこかでわかって
すべてを諦めていたのかもしれなくて。
だけど…
どこも痛くなかった。
確実に私に向かってきたはずの
空気の刃。
ハッとして
自分の身体を見下ろした途端、
左の太腿に
焼けるような痛みが走った。
同時に、
壁や床に
びっしりとこびり付いているのと
同じ色のものが
そこから勢いよく吹き出して
裂けた着物を真っ赤に染めて行った…
それを目にすると
急に力が抜けて、ガクンと膝をついてしまう。
あの感覚は、今でもはっきりと覚えている。
恐怖で震えているのか、
出血のショックで震えているのかは
わからなかった。
でもこのまま放っておけば、
どうなるかはわかっていた。
だからといって動けるかどうかは別問題だ。
部屋の中央にいた異形が、
そろりと私の方に近づいた…
…私もゆっくりと顔を向ける。
目が合えば
襲いかかってくるような気がしたんだ。
それなのに
そちらを向くのを止められなかった。
バチッと目が合った瞬間、
思った通り
瞬時に間合いを詰められ……
その後はもうわけがわからなかった。
ものすごい力で
突き飛ばされたような感覚がして、
私は部屋の壁にぶち当たって
そのままのびてしまったんだと思う。