第10章 知己朋友【ちきほうゆう】
「大丈夫ですよ、
天元様めちゃくちゃ食べるので」
「え…?」
宇髄さん?
「はい…あれ、ごめんなさい。言い忘れてました。
天元様、こちらに入り浸りたいそうです」
「……いりびたる…」
「はい、お正月の間、
睦さんとこちらで過ごされたいと」
…
「そう、なんですか…」
「はい!本当なら温泉旅行にでも
行きたい所だったらしいんですけどね、
せっかくのお正月に
睦さんのご両親を置いて離れるのもなぁと
ずっと悩んでらして。
結局、温泉は諦めて、…
じゃあ料理だけでもド派手にって言われたんです。
ですので睦さん、
天元様の為に腕を振るって下さいね!」
「は、はい…」
それは予想外のお正月だ。
でも私のこともおじちゃんたちの事も
考え抜いてくれた事が嬉しくなってきて、
私はとっても楽しみになってきた。
「あ、ところでこのお餅、どこに置きますか?」
大きなお餅を、ずっと持っていた須磨さんは
だんだんと疲れて来たらしく、
困ったように私に訊いた。
「あぁ、ごめんなさい!
そこの背の低い手元箪笥の上にお願いします」
やっとお餅を下ろせると
須磨さんはにこにこで
「はーい!」
と返事をした。
「須磨さんもお忙しいのに
わざわざこんな所までありがとうございました」
「何言うんですかー。
私これくらいしか出来ないので…」
「またそんな謙遜して…」
「してませんよー。今だって、
私、追い出されたようなものですから…」
伏し目がちに淋しそうな声を出す。
「追い出されたなんてそんな…」
「本当なんです。今、天元様のお屋敷、
大掃除の仕上げしてるんですよ。
雛鶴さんが貼り替えてくれた障子に
穴開けちゃうし、
埃たたきは折っちゃうしで、
めちゃくちゃ怒られて…
お使いくらいなら出来るだろうって
まきをさんが…。
私がいると今日中に終わらないからって…」
目を潤ませる須磨さんが不憫になって、
私はよしよしと頭を撫でた。
「泣かないで。
何でも上手に出来る人ばかりじゃないです。
須磨さんは、元気で可愛くて、やる気いっぱいで、
私、須磨さんといると、
何でもやってみようって
勇気をもらえるんですよ?
私、須磨さん大好きです」
元気を出してもらいたくて言ったのに、
須磨さんは大きな目から涙をこぼした。