第10章 知己朋友【ちきほうゆう】
そう訊かれ、
さっき十字路でしゃがみ込んだのを思い出した。
「違います!迷子になって
どうしたらいいのかわからなくなってしまって…
ご迷惑をおかけして、ごめんなさい」
「謝る事はない!それなら安心した!」
にっこりと微笑むその人は…声が大きい。
すごく。
こんなに近くにいるのに…。
耳がお悪いのかしら…。
でも私の声は聞こえているようだし…。
初対面の人に、
『耳悪いんですか?』なんて訊けるわけないし、
『声大きいですねあはは』なんて笑えない。
「では俺は失礼する!」
そう言って去ろうとするその人に
「あの!私は櫻井睦と申します。
失礼ですが、お名前をお伺いしても…?」
去りかけていたその人はくるりと振り返る。
「俺は…」
その日の夜、
当たり前のように部屋に侵入してきた宇髄さんは
用事をしている私に容赦なく絡みついて来た。
「…終わらないので待ってて下さい」
幾度となく制するのに、
全く聞き入れる気のない宇髄さんは
しつこく離れてくれないので、
仕方なく私が折れて…
今は2人、テーブルについて
お茶など啜っていた。
何故か
宇髄さんの膝の上で抱えられている私は
おやつにとチョコレートを食べていた。
「…お前ソレ何食ってんの」
変なモノでも見るような目で
凝視する宇髄さんに
「チョコレートですよ。
甘くて美味しいんです…食べてみますか?」
「いや…甘ぇんだろ…?」
「すっごく」
にこりと笑うと、横目で私を見て、
「よく食えるな」
と言った。
「幸せになりますよ?やみつき…」
答え終わる前に唇を奪われる。
口内をペロッと舐められて
パッと離れる私を引き寄せて抱きしめると、
「…あっま…。
でも睦からもらうんなら悪くねぇかな」
独り言のように言ってお茶を啜った。
この人はどうして
こんな事を平気でできるのか…。
その時ふと、昼間あった事を思い出した。
「…煉獄さんて方、知ってますか?」
「…あぁ」
私からその名前が出た事に目を見開いた。
「今日助けていただきました」
「…助ける、って。何かあったのか」
…声が低くなった。
少し、機嫌が悪くなった証拠。