第10章 知己朋友【ちきほうゆう】
…土地勘はある方だ。
方向音痴でも、無いと思う。
放浪癖もない。…
…なのに何故、全く知らない袋小路になんか
入り込んでしまったのだろう。
見る限り、壁だ。
住宅地、と言うべきなのか…。
だいたいこんな場所があったなんて
今の今まで知らなかった。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩くが、
抜けられる気がしない。
人通りもまったくなく、物音ひとつしない。
もと来た道を戻るべきなのか。
十字路に立って考える。
…もと来た道、とは…どっち?
あぁもう…
どっかのお屋敷に入って、
恥を忍んで尋ねるべきなのか…
私はその場にしゃがみこみ頭を抱えた。
…いや!こんな事をしていても始まらない!
そう自分を奮い立たせ、パッと顔を上げた時、
大きな紅い瞳が
目の前で私を見据えていて、
「っわあ‼︎」
私はしりもちをついた。
人っこ1人いなかったはず。
気配も音もまったくしなかった。
いつから、…いつの間に私の前にいたのか…?
すぐさま腕をつかまれて、
力強く引き上げられ
軽々と立ち上がらされる。
…すごい力。
……
「来なさい」
一言発すると
その人は私の腕を引いて颯爽と歩き出す。
…何だろう。
あの出立ち。
…誰かと、同じ匂いがする。
根拠は、あの腰から下げた刀だ。
あんな物を真っ昼間の街中で
堂々と持っている人を、私は知っている。
もっともその人は、
背中に2つもくっつけていたけれど…。
その人も今や『引退』したそうで、
ただ『所属』はしているらしく
何やら下の人たちの世話をしているのだそう。
…よくは知らない。
ふと気がつくと、
遠くから聞こえる喧騒。
そして、
よく知った光景が目前に広がった。
振り返り確かめると、
いつもと一本違う道に入り込んだだけのようだった。
私は騒がしさに安心してホッと息をつく。
その様子をちらりと確認したその人は、
「ここなら大丈夫か!」
往来の邪魔にならないよう、
空き地の前で立ち止まる。
「はい、助けて頂きありがとうございました」
私が笑顔で答えると
私の様子を窺うように
「…さっきうずくまっていたのは、
具合が悪いわけではないのだな?」