第9章 好敵手
「ならそのまま連れて帰れよ。
話しなんてとっくに終わってらァ」
シッシッと手で払われ、
不死川は仔犬の頭を撫で始める。
「…睦、それでいいのか?」
睦は返事の代わりなのか
更にぎゅっと抱きついてくる。
それなら、と俺は不死川を振り返ったが
すでに仔犬しか目に入ってねぇ不死川は
我関せずだ。
「…不死川」
これだけは伝えておこう。
「お前と仔犬、異色だがなかなかお似合いだなぁ。
優しさ全開ね、実弥ん」
聞いた途端、顔を真っ赤にして
「〜黙れてめェ‼︎
とっとと行っちまえ!」
凄んだ。
怖くねぇ怖くねぇ。
そんなチビと遊んでるお前なんて。
ざまぁみろ。
灰色の雲の間から、白いものが落ちてくる。
とうとう降り出した雪。
睦はあのまま俺にしがみついて歩き、
俺はその小さな足を
踏まねぇようにするのに苦労していた。
「睦、ホラ、
ちょっと離れろ。寒いだろ?」
睦の腕に巻き込まれた自身の羽織を
くいっと引っ張ると、
どうすればいいのかが伝わったようで
ほんのちょっぴり…
羽織を引き抜く事ができるくらいちょっぴり離れ
抜き終わった途端にまた抱きついてくる。
厚手の羽織でくるんでやって…
すると睦はふっと、
身体から力を抜いた。
…寒かっただろうな。
さっきも思ったが、なんでこんな薄着だよ。
「…睦、ちょっと、
離れたりしねぇか?
うちに着いたら、またくっつこうぜ?」
「…邪魔?」
「邪魔、じゃねぇが…
踏んじまいそうで怖い」
苦笑いすると睦も顔を上げて笑った。