第9章 好敵手
「何でまた急に甘えたくなったんだ?」
珍しく、あんな人前で…。
「宇髄さんが素敵だったから」
「…ヘェ」
…どこが睦のツボに入ったのかは
まったくわからねぇが、喜ばしい事だ。
「あ、…雪…?」
睦は空を見上げて、目を細めた。
雪、何かあるのか?
…と、訊こうとしてやめた。
泣きそうな目を、していたから。
生きてると、色々あるなぁ睦よ。
俺の羽織の中に入り込んだ睦の体を
自分にぐっとくっつけて、
「…帰ろうぜ」
歩を促す。
空を見上げていた睦は
俺に目を当て、安心したように表情を緩めた。
お前には、帰る所があるよ。
「…うん。…宇髄さん、あったかい…」
しみじみと言う睦の
服装の事を思い出して、
「お前何でいつもそんな薄着なの」
ずっと思っていた事をやっと口にしてみる。
「…昔のクセ」
「あぁ…そういうこと」
着せてもらえなかったのね。
「今度あったけぇの買いに行こうな」
気づかなくて申し訳ない。
そして、家路をゆっくり歩く。
いろんな話しをしながら。
次の休みはどこに行こう、何を買ってやろう。
予定を立てながら歩く道は凍てついていても
2人の道は何てあったかい。
睦がいれば、
冬なんて目じゃないと思いながら
俺は睦を抱えて空を見上げた。
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