第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
「先生」
「んー」
スープを飲んでいた先生は、
持ち上げたカップの隙間から
私の方に視線をくれた。
「明日が楽しみだった事なんて私初めてだよ。
先生のおかげなんだ。ありがと」
「……」
多分、スープは飲み干したはず。
なのに先生はカップを口につけたまま
その陰からジッと私を見下ろしている。
「聞こえてる?」
動かなくなった先生を見て不安になった。
「あぁ、聞こえてる。
悪ィな。俺の睦は、
やっぱ可愛いなぁと思ってた」
「またそんな…」
「大袈裟じゃなくてだよ。
だけど、明日が楽しみなんて良い事だ。
その手助けを俺がしてやれたんなら
それに越した事はねぇよ。
俺がそばにいた意味があったって事だな」
先生は満足そうに笑った。
笑ってくれるだけで、
私の心はどんどん軽くなる。
先生と出逢えてよかった。
私はそんな事を考えていた。
制服を着て、
お弁当は2つ。
ドアの外は予報通りの小春日和。
相変わらず、右手で胸元の指輪をいじりながら
私は学校へと足を向けた。
先生は10時前にと言っていた。
只今、午前9時。
ここから学校まで、
先生の車で平均7分かかる。
ゆっくり歩いたら、10時前に着ける計算だ。
年度末で忙しいだろうに、
私の相手もしなくちゃいけなくて
先生はきっとてんてこまいだろうな。
でも、めんどくさがらずにいてくれて
私は大感謝だ。
今だって、先生の所に行けるかと思ったら
胸が高鳴って仕方ない。
恋なるものは、もう病気と何ら変わりがないな。
先生との距離が縮まっているのかと思うと
なんて愛しい道のりだろう。
……
『お前今日どうした』
昨日先生に言われた言葉が蘇る。
ほんとだよね。
私も心からそう思うよ。
こんなキャラじゃなかったのに。
私こんなので大丈夫かな。
毎日通った道を
ゆっくり踏みしめる。
制服を着て
こうやって歩けるのは
あともう、ほんの数日だ。
そう考えるのが、とっても不思議。
ただの逃げ場だったはずの学校が、
先生のおかげで楽しい場所に変わった。