第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
「櫻井さん!」
窓際の自分の席。
そこから外を眺めていた私の耳に
元気のいい声が届いた。
頬杖をしていた手から顔を上げ
そちらを向くと、
声の主である纐纈くんが
私のすぐ隣に辿り着いた所だった。
そして何も言わず、
にこにこ顔のまま両手を差し出す…
「あー…」
私は机に仕舞ってあった、
寄せ書き的なカードを取り出して
裏向きにしてその手に乗せた。
「あのー…後で、」
後で見てね
そう言いかけたというのに
人の話なんかまるで聞かずに
纐纈くんはそのカードをくるっと返して
「わぁお、可愛くできてる!」
わざとらしく驚いて見せた。
「後で見てって言ったの…!」
私はそれを両手で隠して抗議する。
でもそんな事お構いなしで
「別に後で見ても今見ても同じでしょ。
どうせ見るんだから」
椅子に座っている私には
手の届かない場所でかざし眺めた。
「私のいない所で見てよ!」
「いいじゃないの、
わざわざ書き直す程なんだ。
どんな出来栄えか、すぐに見たくもなるよ」
「えぇ…」
この人のこういう勝手な所は
あんまり好きになれないなぁ…
良い人なんだけど。
多分、未だに私の事を
飼い犬だとでも思っているに違いない。
…腹立たしい話だ。
「でも何でわざわざ書き直したの?
前のも好きだったけどな。
あのカエル可愛かったのに」
……あんたがそんなこと言ったからだよ。
「カエル好きなの?
でもカエルって普通緑で描かない?
茶色で描くあたり、個性的だよな」
そうさ、茶色で描きもするさ。
だってアレは、クマだったからな。
「期限すぎちゃってごめんね」
いろいろ文句をつけたいのを
グッと我慢して、
私は話題を逸らしてみた。
すると単細胞纐纈少年は
「いいのいいの、1日くらい」
まんまと脱線しやがった。
だってあまりにも失礼すぎるだろ。
人が時間をかけて描いた絵をだよ?
堂々と間違えてくれてさ。
疑問はカケラもないのか。
あれ?
カエルだと思ったけど、茶色だし
待てよ?
もしかしてクマなんじゃないか?
そんな余地もないほどカエルだったか⁉︎