第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
受け答えははっきりするのに、
やっぱり目は合わせてくれないらしい。
なかなか、ツラいモンがあるな。
睦は少し身をよじり
ここから離れようとした。
…離したくねぇな。
そんな気持ちを抱えたまま、
俺は腕を解いてやった。
その時見てしまったのだ。
明らかにホッとした、睦の顔を。
ツキンと胸が痛んだ……
…っていうか、俺は乙女かな?
あーあ、やーめた
「俺、先に休むわ」
「えぇ…ッ、もう?」
俺と離れてホッとしていたはずの睦が
裏腹に淋しそうな声を上げる。
…なんなんだ。
そばに居るのはイヤなくせに
居なかったら淋しいのかよ。
「お風呂は?」
「朝シャワー浴びるわ。
お前そのメッセージってヤツ書くんだろ?
あんま遅くなるなよ、
寝不足で面接とかあり得ねぇからな」
ぽんぽんと頭を撫でてから
俺はベッドルームへと向かった。
睦は何か言いたげにしていたが
やっぱり目線を床に落としたまま
ついぞ何も言うことなく、
俺たちはそのまま
別々の時間を過ごす事となった。
面接ねぇ…
ここから二駅先にあるデパートの中の
女こどもが好みそうな雑貨屋。
そこの求人を見つけ
面接に行きたいと言って来たのが3日前の事。
俺はあんまり気が進まなかった。
卒業してすぐにでも働こうとしているのが
ありありと見て取れたからだ。
焦っているのが、あまりにも明らかで。
職種を考えてみろ。
デパートでの販売員だぞ。
ぬいぐるみに文房具、
ルームウェアやバスグッズなど、
可愛らしいものを売っているから
店の雰囲気はアットホームだろう。
だが、働く側にしてみたら
厳しいのは厳しいに決まっている。
それを睦は知らないだろう。
加えて
『いらっしゃいませ』の声出しも、
客に話しかけるのも
睦に合っているようには
まるで見えなかったのだ。
ただ『働こう』という意思だけは
はっきりと伝わってきて、
そのせいで、俺はやめとけとは言えなかった。
だって睦にそうさせるのは、
他でもない、この俺の存在なのだから。