第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
だからといって、機嫌が悪いわけではない。
受け答えも穏やかだし
笑顔だってちゃんと浮かべて見せる。
…じゃあ、俺なんにもしてねぇの?
いや、なら何で、俺の目を見ない?
おかしいな……
キッチンに立って、
洗い終えた食器を片付けている睦を
そっと見遣る。
元気がなさそうに見えるのは、
俺の気のせいなんだろうな。
しんどいワケでもなさそうだし、
機嫌も悪くない…
ただどことなくよそよそしいというか…
隙間を感じる。
…あれ、もしかして
映画館でキスとかしたから?
——いや、でもあの時、
あいつ文句も何も言わなかったのに。
言わねぇだけで嫌だったとか?
…いやー、睦の性格なら
もし嫌だったりしたら
『こんな所で!』って怒り出すよな。
でも、おとなしくなって照れるばかりで…
それがあまりにも可愛くて
強く抱きしめてしまった程だ。
その時だって、
別に嫌がる素振りは見せなかった。
…なら、なんだろうな、この距離は。
こちらからの視線が気になったのか、
睦がこちらを向くような気配を感じ
俺は咄嗟にテレビに顔を向けた。
なんでそんな事をしたのか
よくわからなかった。
視線を合わせられる
チャンスだったかもしれないのに。
…いやいや、何を考えてんの俺。
「先生、リモコン折れちゃうよ…?」
俺の耳に、不思議そうな声が届いた。
ふと見下ろすと睦の言う通り、
無意識に握りしめていたテレビのリモコンが
ギシギシと鈍い音を立てている。
やべぇ。
このまま持っていたら
本当に真っ二つにしてしまいかねない。
俺は慌てて、ローテーブルの上に
そのリモコンをそっと置いた。
その様子を見届けた睦が、
「お茶飲む?」
そう問いながら茶器を持ち上げたのが
目の端にうつる。
…あれ?普通だな。
そう思った俺は
試しに睦の方に顔を向けてみた。
「…ん?」
小さく首を傾げ、
「………なに?」
何も言わない俺の目を凝視めて来たのだ。
…目が、合った…
なんだ?
俺の取り越し苦労って事か?