第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
冷えた空気に触れたのも一瞬のこと、
すぐに先生の手に握り込まれた。
「使い捨てカイロ買ってやる」
私の手の冷たさに、
先生は冷静な判断を下す。
「…いらない」
そう言ってしまってから
あ、イヤな言い方になっちゃったな…
と思ったのに、
「そうだな。俺がいれば事足りるもんな」
さすが先生は前向きで、
ははっと笑ってくれて
私の手を引いて歩き出した。
…それはその通りだ。
「うん…先生の方がいい」
きっとカイロよりもあったかいはず。
私の小さな声は、
喧騒に掻き消されたと思っていたのに
先生の耳はごまかせなかったようで…
「そいつは良かった。
カイロに負けたらどうしようかと思ったぜー」
ちょっとおどけたみたいな言い方で
私の笑を誘う。
「何かテイクアウトしてうち帰ってから食うか。
その方がゆっくりできるだろ」
「冷凍庫にお肉もうどんもあるよ」
帰ってから作るよ、という意味で言ったのだ。
このまま帰るのであれば
買って帰る必要もないかと思って。
だけど先生の考えは違っていた。
「たまにはサボってもいいの。
毎日毎日、よく頑張ってくれてるからな。
睦もたまにはゆっくりしろよ」
…そうなると、
私の悪いクセが発動する。
自分の仕事を奪われた…
ひいては、
私の居場所を奪われた気分になるのだ。
そんなの、私が間違っているのは明白。
なのに
この性格は厄介だよね。
先生、私こんなのだけど、ほんとにいいの…?
目が合わない。
昼間から1度もだ。
…俺、なんかしたっけ。
そんな疑問が頭の中を駆けずり回っていた。
ソファに腰を沈め、テレビを見るフリをしながら
俺はずっとその事を考えていた。
朝はよかった。
どちらかと言えば、甘い雰囲気満載だった。
最近ちょっと様子がおかしくて、
でもそれが
緩和されたかとすら思っていたくらいなのに。
映画を観終えた頃からだ。
あの辺りから、ずっと俯きがちになり、
俺と話す時も、
喉のあたりから目を上げようとしなくなった。