第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
…『はい』?
やけによそよそしい返事だ。
そんなびっくりさせたかな。
ていうか終わってるのに
まだスクリーン観てんのおかしくね?
そんな事を考えながら
カラになった飲み物のカップたちを回収し
立ち上がるも、
睦はそれについては来なかった。
立ったまま顔だけ睦に向けると、
俺の視線に気がつき
深く俯いたまま
慌てて立ち上がった……
その様子がちょっとおかしいように見えて
「…大丈夫か?」
なんとなくそう訊いてみる。
「え…大丈夫だよ、」
セーターの裾を直しながら
こちらに顔も向けないまま睦が言った。
「……ふぅん、」
…そこからだ。
この違和感はここから始まった。
怒っているのとはまた違う…
嫌われたんじゃねぇか疑惑が。
わざわざ新作を、
映画館に観に行くことなんかなかった。
観たかったのは観たかったけれど。
少し前の映画をサブスクやDVDで
観たって問題はなかったのだ。
でもそうすると、家に籠ることになるでしょう?
家にいるのは
私としては避けたかったんだ。
家で2人きりで過ごす時間を減らしたかった。
外にいれば、大丈夫だと思ったんだ。
出来て、手を繋ぐ程度…そう思っていたから。
それなのにこの人は、
映画館という公共の場で
あろうことかキスをしてきた。
辺りは真っ暗、しかも1番後ろの席。
予告の音で妖しい息遣いは掻き消されて…
多分周りのお客さんの中に
気がついた人はいなかっただろうし、
先生なりの配慮はあったのかもしれない。
だけどだ。
私の読みは外れていたという事になる。
家だろうが外だろうが、
…先生は止まらない。
まだ気持ちが整いませんて、
ちゃんと告げた方がいいってわかってる。
私がそう言ったら、
先生の事だ
ちゃんと考えてくれるに違いないのだから。
だけど、ここまでお世話になっておいて、
…しかも乱暴するわけじゃない。
愛してくれるのだと言うのに、
それを無下にしていいものだろうか…