第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
するとくすくす笑って
「中にね、メープルシロップと
クリームチーズが入ってるんだ」
まるでいたずらが成功したかのように、
楽しそうな目で俺のことを見上げた。
確かに、ここまで甘いとは思わなかった。
そのメープルシロップは、
チーズの酸味を見事に打ち消してるけど。
失敗じゃねぇの、その甘さは…。
そっか。
だからそれにしたのか。
朝からあんなに大量のハチミツを摂ったくせに
まだ足りねぇのかよ…
それにしても楽しそうに笑いやがる。
最近稀に見る、晴れやかな笑顔だな…
そんな可愛い笑みに吸い寄せられるように
気がついたら、キスをしていた。
「…っ!」
睦は瞬時に息を詰める。
そのせいで、ふと我に返ったが
小さな戸惑いすら愛しくて
睦を解放してやることが出来なかった。
背もたれに埋まるほど身を引いて
めいっぱい逃げる睦の手が、
やめろと俺の肩を押す。
その手を握り込み力を抑え込むと
今度は顎を引いて抵抗した。
…まぁね、こんなとこでする事じゃねぇよな。
だけど
「…っん、」
離れたくなくなった俺を許してくれるかな…
後で怒られるの覚悟の上で
予告が終わるまでの約10分、
俺は睦の唇を堪能するのだった。
しかし、
…許してくれるとか、
そういう次元じゃなかったかも。
俺がそう感じたのは
映画が終わった瞬間だった。
エンドロールが流れる頃、
場内の3分の1程度の客が席を立った。
睦はどうするだろうと思って
隣を窺ったが
立ち上がったり、その準備をする気配はなく
座席におとなしく座り
スクリーンを観ていたから、
俺もそれに倣って
すべて終わるまでと、そこに座り直したのだ。
しばらくしてスクリーンも消え客電も点き、
周りの客も皆一斉に立ち上がる。
さすがに行くかと睦を振り返ると
真っ白なスクリーンをボーッと眺めていて…
「…睦、行くぞ?」
声を掛けると、ハッとして
「はい…っ」
もたれていた背中をシャキッと起こした。