第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
機嫌がいいに越した事はねぇが、
その原因がわからねぇ俺は
どうにもモヤモヤが解消できないのだ。
肘置きに置いた烏龍茶をひと口飲み、
「…人、少ないね、」
場内を見渡した。
確かに、あと3分で始まるというのに
客足は少ない。
「公開してから割と経ってるからな」
「そっか…」
少しホッとしたように
睦は息をついた。
今日はわざわざ、
2つ先の街の映画館まで来ている。
たまにはドライブ、という名目だが、
その実、知り合いに出会さないためだ。
駅からも離れているこの映画館は
高校生じゃ来づらいだろう。
ここなら安心と前から目星をつけていた。
割と新しいこの映画館。
館内も綺麗だし、フードメニューも豊富。
思った以上に居心地がよかった。
取った席は1番後ろの、
スクリーンに向かって右端の2つ。
睦の希望だ。
俺はど真ん中で観たい。
だって1番観やすいだろう。
だが睦は端がいいと言い張った。
理由は単純、落ち着くんだそうだ。
いかにも睦らしいと思った。
俺としても、睦の向こう隣に
誰か人が来ねぇのは安心だから、
特に文句はなかった。
客電が落ち、予告が始まった所で
睦はプレッツェルを頬張った。
予告なんかよりも
睦に興味のある俺は
じっとそちらばかりを見ていた…ら、
さすがに視線に気がついた睦が、
『な、あ、に』と声を出さずに語りかけて来る。
その様子がやけに可愛らしくて
つい笑うと、
何を勘違いしたのか、
持っていたプレッツェルを俺に向け
きゅっと小首を傾げるではないか。
……食えと。
いや、俺が食いたそうに見えたって事か。
しかしその親切を無駄にはするまい。
俺は顔を寄せ、ひと口ぱくりといただいた…
食いちぎるよりも早く、
俺の鼻に抜ける甘い香り。
咀嚼する頃には
口内いっぱいにひろがるシロップの味…
「あまー…!」
食う時に寄せた顔を更に近づかせ
予告の音楽に負けないように
睦の耳元に向けて言った。