第48章 .☆.。.:..卒業*・°☆.
正気であれば、まずこんな事はしないだろう。
まだ夢の続きだから
こんなふうにあどけないのだ。
でも俺としては
こんなの、いつでも大歓迎なんだがな…。
でも最近なぜか、
すごく距離を感じるような。
必要以上に近づかないというか
近づけさせないというか…
せっかくあそこまで近づけるように慣らしたのを
リセットされてしまった気分だった。
「睦、顔洗っておいで…
もう焼けてるから」
焼き立てが食べたい——
そう言っていた睦。
このままでも一向に構わないが
後々恨み節を聞かされるのはごめんだ。
「いい匂い…」
「あぁ、そうだろうな」
キッチンに充満した
ホットケーキの甘い香りは
さすがに睦の食欲を刺激しただろう。
いい傾向だ。
「出来立て食うんだろ?」
洗面所へ促すのに、
未だ寝ぼけた睦は
ここから離れる気はないようだった。
「お花の匂い…」
「おはな…」
ホットケーキだけどね。
花なんか咲いてねぇし。
お前の頭ん中に咲いてんじゃね?
…とはさすがに言わねぇけど。
「睦ちゃん…?
わかったから早く食えば?」
抱きついたまま、
動かないどころかより埋まってくる睦に
できるだけ優しく語りかける。
…最近元気ねぇっぽいし
すこーし遠慮したりして。
ちょっとした刺激で萎んでしまいそうだから
無駄に優しくなりがちな自分に笑えてしまう。
自嘲した俺に額を押し付けている睦が
「せんせ…おんなじ匂いする、」
ふわふわと笑った。
…いやいやいや。
違うんかい。
ホットケーキじゃねぇの、俺じゃねぇか。
「そりゃそうだろ、
お前が一緒くたに洗ってんだから」
しかもなんか、匂わせるビーズ入れやがるし。
あれすげぇんだよ。
いやらしくはねぇけど
ふとした時に自分から花の匂いがすんの、
すげぇ違和感なんだけど…。
まぁ、俺は洗ってもらってる身だし、
睦がする事だから文句もねぇけどさ。
ただこの香りは
睦の事を思い出させて
俺をたまらなくさせる。