第46章 .☆.。.:.贖罪。.:*・°☆.
それを、謝る機会が
もしかしたら巡って来たのではないか。
——まさか、そんな事があるわけない。
だってあれは、もう何年前だろう。
あんな事件を起こした人が
まだ、生きて目の前にいるなんて事あり得ない。
だけどさっき私を呼んだあの声は、…
私が聴き間違うはずのないあの声は、
…間違うはずがないんだから
じゃあやっぱり………
私の視界を塞ぐ、頼もしく広い背中。
強く握られた手を
さっき以上に掴み返し
私は覚悟を決めて
そこから顔を覗かせた。
それに気づいた宇髄さんが
戸惑いがちに顔だけで私を見下ろして、
…私はそれを一瞥してから
寄り道をしつつ
宇髄さんと対峙した男の人と目を合わせる。
鋭いけれどどこか優しさを帯びた瞳。
姿勢よく背筋を伸ばし……
宇髄さんには及ばないけれど
体格もよく上背がある。
……
昔ほど色ツヤのよくない肌。
多少、年齢を感じさせる髪。
痩せてしまった頬。
私を凝視める、優しい眼…
私と宇髄さんの目の前に居るのは、
お父さんだ。
あの日、
お母さんが
この世を去ったのと同時に居なくなった、
お父さんがいた。
本物?
でも私の名前を呼んだんだ。
そして、どう見たって本人じゃないか。
どうしてさっきは気づかなかったかと思う程
目の前の人は間違いなくお父さんだ。
でもそんな事、気づくはずがない。
だって居るはずがないもの。
そう思っていたんだもの。
「睦…睦だろう」
「……」
喉が詰まって声も出ない。
恐怖じゃなくて、…
胸が苦しくて。
私だよ。
そうなんだけど、…
ちゃんと返事をしたいのに。
もたついている私を見かねたのか、
宇髄さんは繋いでいた手を解き
それを背に回して
自分の背中に隠れていた私の身体を
前面に押し出した。
もう一度見上げた私に
フッと表情を和らげる宇髄さんは
目の前の人が何者かに気がついているような
そんな気がした…
宇髄さん、私はこの人が誰なのか
気が付きたくないんだよ。
違う、もう気づいてるけど。
まだ予想の域でしょ?
はっきり決まってない。
限りなく、正解に近いけれど…
だって…怖いんだ。
違ったらどうしよう?
違わなくても、どうしよう…。