第46章 .☆.。.:.贖罪。.:*・°☆.
「…っ」
男が息を呑んだのがわかった。
鋭い瞳。
伸ばしたというよりは
伸びてしまった印象の髪。
薄汚れた衣服。
その割に、どこか凛とした姿…。
俺ほどではないにしろ、
ガタイはよく上背もある。
この間、
警察に追われていた男に間違いなかった。
すれ違いざまに目が合った。
忘れるワケがねぇ。
身が削られて行きそうな勢いで
その男が凝視めるせいか、
完全に竦み上がった睦は
顔面蒼白で、俺の指が千切れそうなくらい
力を込めて握りしめてきた。
あの時、睦は
俺の胸元に顔をうずめていた。
この男の顔を見てはいないはず。
それに、
近頃睦のそばを彷徨く輩が
こいつだと決まったワケじゃねぇ。
なのにこの怯えよう…
直感というか…
何かしら思う所があるのだろう。
こりゃいけねぇと思い、
睦を匿うように
2人の間に立ちはだかった。
背に隠れた途端、
震える細い指が俺の背中に添えられ
ぎゅうっと強く握り込む。
繋いだままの手をキツく握りしめ
大丈夫だと伝えると、
向こうはその力を緩めて
こつんと額を背に充てた。
俺の手の届く範囲にいる限り
間違いは絶対に起きねぇ。
睦を守り切る自信はあった。
今まで付き纏っていたのはこいつなのか。
それをちょっと確かめてやろうかと
スゥっと息を吸い口を開きかけた所へ、
「…睦」
まさかの、ひと言だった。
睦、ほら見てみろ
どこ?
あの枝の先
あれはルリビタキだ
ルリビタキ…
この辺りではあんまり見られないんだぞ
嬉しそうなそんな声。
そんなことより、私もう寒い。
幼かった私は、珍しい野鳥よりも
その寒さに耐えられなくて、
今思えば
その人の心を踏み躙ったような気がする。