第45章 .☆.。.:.笑って。.:*・°☆.
廊下を何となく進みはするものの、
何がどこにあるのかなんて
さっぱりわからない私は
ほぼ迷子のような感覚で
ただ彷徨っていた。
すると、
ぼそぼそと小さな声が聞こえたような気がして
それを頼りに角を曲がった時だった…
きっとそれは、千寿郎さんの声。
「宇髄様はいつお戻りになるのですか?」
相手は多分、煉獄さんで…
「2日程かかるだろう」
耳をそば立てなければ
聞こえないくらいの距離だ。
でも煉獄さん程の人だ。
これ以上近づけば、即気づかれる。
今は千寿郎さんと2人、
しかも自宅にいるわけで…
多少気も抜けているだろうから
気づかれる危険も少ないはず…
「そんなに…。宇髄様のお里は
随分と遠くにあるのですね」
宇髄さん…?
思わぬ名を聴いて
私の足はピタリと止まった。
お仕事だとばかり思っていた私は
まさか宇髄さんが里帰りしているとは思わず
面食らってしまう。
ならどうして、
昨夜煉獄さんも否定しなかったのだろう。
お仕事かと、私は訊いたつもりだったけれど。
トントンという音は、
包丁がまな板に当たる時のもの。
何かを切っている音だ。
もうすでに、朝餉の支度を
し始めているようだった。
私にとっては早い時間でも、
この兄弟にとってはそうでもなかったようだ。
「それにしても、そんなに遠くにも関わらず
毎年お墓参りを欠かさないなんて
本当に律儀なお方です。よっぽど
ご兄弟を大切にされておられるのですね」
……え?
今、なんて…?
私は軽い眩暈に襲われて
フラついた拍子に、
壁にトンっともたれかかった。
更に膝からも力が抜けていき、
壁を伝って
ずるずるとその場にへたり込んだ。
「シッ」
千寿郎さんを制したのだろう、
煉獄さんの鋭い気配が
その場の空気を硬いものにする。
台所からトッと出てきた煉獄さん。
少し離れた場所、
壁際に座り込んだ私を見つけ
「睦!」
慌てて駆け寄ってくる。
その後を千寿郎さんもついてきた。