第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
あれ、俺今ちょっといいこと言ったっぽくね?
「なりてぇの?」
「考えた事もなかったけど。
ちょっと素敵だなとは思った」
「案外なれるかもな。
単純な絵、子どもはわかってくれるしな」
「ほんと?なら作家名わたあめにしよ」
「……ぶっ…ははは!マジか!」
「何で笑うのー、自分が言ったくせに」
口を尖らす睦。
そんな顔をしたって、可愛いのなんのって…
「そうだけどよ…。あ、じゃダメだ、
こんな本物みてぇにしちゃ。
わたあめじゃなくなっちまうもん」
「ちょっとほんとひどいな!」
「なんだよ、
睦だってそのつもりだったろ、
ならいいじゃねぇか」
俺は自分が描き足した部分を
指先でこすった。
だが鉛はしっかりと固定されていて
まったく薄れない。
いつもの木炭のつもりだった。
「あー、4Hだった。消えねぇわ。
どうすんだよ、わたあめー」
「あはは、ひどーいー!木だから!」
「だって作家名にするくらいだぞ?
もうピンクのわたあめにしちまえよ」
「だってわかってくれたじゃん、
木だってわかったでしょー?」
「俺だからわかったんだろ?」
「誰かひとりだけでもわかってくれたら
それでいいんだよ」
「誰かじゃねぇんだよ。
俺だから、わかったのー」
「なんでよー。絵を極めてるから?」
「違う。睦の事なら
何でもわかる力が備わってるから」
「…なんで、…え、どういう事…?」
何かを言いかけて
何だかおかしな事に気がついたらしく
俺の言葉の意味を問う。
「どういう事でしょう?」
「なにそれ、…あ、何描いてるの!」
「わたあめおばけ」
「はぁ?」
睦が『木』と言い張るものに
さっき描き足した枝を手に見立てて、
もこもこの真ん中に
睨みをきかせた目を2つ描いた。
「や、…あはは可愛い…!」
「可愛い?おばけだぞ」
「可愛いもん」
「怖いと言えぇ」
目の下にクマを描いたり、
青筋を足したりいろいろやるのに
睦は
「可愛いー!」
と笑うばかりだった。