第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
「おー、そりゃ悪ィな、でもよ、
…これ……わたがし?でなきゃアフロだぞ」
「いいよ何でもー。鉛筆ありがとー」
はぁあと大きなため息をついて
雑な感じで鉛筆を差し出す。
「…え⁉︎終わり⁉︎」
俺の驚きは増す一方だ。
「下書きそれで終わりなのか?」
「悪いの⁉︎私の絵がヘタなのは
どうでもいいじゃん!わかってるし!
自分がヘタな事くらい!」
あぁ…さすがにキレた…
「いやいや、
絵なんてうまいもヘタもねぇから…。
気持ちだ気持ち。
あるよな、お前にも気持ちがよ」
「………」
押し殺すなよ、の牽制のつもりで言った。
それを受けて一瞬息をつめる睦は
うん、とロボットみたいに頷いて見せる。
……わかってんのかね。
「絵なんか気持ちで描くモンだ」
それにしたって、
こいつの絵はわからなすぎて
この俺が狼狽えた程だからな。
だが、まぁこいつが描く気になってんだから。
いいんだよ、アフロだろうがなんだろうが。
受け取った鉛筆をくるくる回し、
「早ぇなぁ……」
「えぇ?」
「いや。もっと時間かかると思ってたからよ。
終わっちまったな、やる事…」
「もうこれで完成なの?」
「ンなワケあるか。色塗るけどなぁ。
イーゼルも絵の具もねぇだろ、ここには」
「そっか…じゃ今日の授業は終わりかぁ」
キャンバスを自分の腿に乗せ、
上部に両手を掛けた睦は
トンっと背もたれに背中を預けた。
そうして
さっきの俺みたいに天を仰ぎ、
流れゆく雲をボーッと眺める。
「写真じゃなくて…」
すると唐突に、睦が口を開いた。
パッとそちらを見るが、
睦は天を見上げたまま。
「動画でもなくて…。
目に見えないものも残せるのっていいね、」
一瞬、何のことを言っているのかと思った。
「絵の事か?」
「うん…。自分の記憶とか、
思った事とか、…言葉じゃなくて」
「言葉は苦手だもんな?」
「……」
目だけをキョロッとこちらに向け、
「うん…」
嬉しそうに笑う。
それが、
わかってくれてありがとう
と言われているように感じた。