第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
なんで、この人がお礼を言うんだろう。
今ありがとうを言うのは、
私の方だというのに…
聞いてくれて、ありがとうって。
しかも、私が泣きそうになった事に気がついて
わざと話の流れを止めた。
そうとしか思えないタイミングだった。
「昨日、櫻井の話を聞いた時、
なんでそんな自分を押し殺すみてぇな
小難しい話し方をすんのかって
ずっと思ってた。
隠してぇ事があるんだろうなとは思ってたが
…そんな理由だったのか。
ツラかったろうな、」
「私は…ツラくないよ。
ツラかったのは、あの時の友達の方で…」
「そんなのさ、」
私の言葉を遮って、彼は少し語気を強める。
「お前の悲しみの比にはならねぇよ。
その場にいるみんなから一斉攻撃されて
それだけでもキツいだろうに、
悪口を言ったワケでもねぇのに
悪者扱いされたんだ。そんなの、
お前はいじめを受けたのと同じ事だろ」
「……」
「悲しかっただろ。
自分が誰かを傷つけるのもだけど、
傷つけられる事も知ったんだよな。
いっぺんにそんな事が起こったら
人と話すのが怖くなっても仕方ねぇや」
今になって出来た、大きな味方。
涙が出そうなくらい嬉しかった…
彼の声はやっぱり空を向いている。
私の事を見ないでいてくれる。
…だけど、泣いたりなんかしないけど。
でも今の顔を見られるのは
やっぱり嫌かもしれない。
ありがとう、優しい人だ。
「で、」
私は私で、キャンバスに向かっていると
「俺はさぁ」
その先を続けようと彼が更に言葉を重ねた。
「小学生女子なんかより全然オトナで
人間が出来てるからよ、
これからは普通に話して大丈夫だぞ。
自分を押し殺したりしなくてもいい。
頭ごなしに責めたり、否定なんか
俺は絶対ぇにしねぇから」
自分を隠すことはない。
そう、言ってくれるの…?
やっぱり冗談めかして言う彼だけど
本音はきっとそこにあって、
私が気を遣わずに済むように
ちゃんと考えてくれているんだろうと思った。