第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
「ね、?」
天を仰いだまま
雲の流れを眺めている彼に
声をかけてみる。
「どうしたらいいの?」
「鉛筆持ってるか?
シャーペンでもいい」
「持ってない」
「そりゃダメだ」
勢いをつけて上体を起こし
自分のカバンをあさった。
筆入れから芯の尖った鉛筆を1本取り出して
「…お前今日の授業どうしてたんだ」
おかしいな?と首をひねる。
「ペンケースは教室においてある」
「あぁ、そうか。じゃコレ」
差し出された鉛筆。
4Hと書いてある。
そんな硬いの使ったことなかった。
「俺はいっつも木炭使うんだ。
でも定着剤がねぇから今日はそれな」
「これで描くの?」
私は鉛筆の芯の先を
あちこちから眺めて訊く。
「そ。その鉛筆で下絵な。
何描くか決めて来たか?」
「決めた!」
「じゃそれ描きな」
「うん…」
私はキョロキョロと辺りを見渡し
腰を下ろせそうな所を探したけれど
地面に座るしかなさそうだった。
しばらく立ち尽くしていると
「おい、」
やっぱり見上げたままの彼が、
腕を背もたれから下ろして
自分の左側の座面をぽんぽんと叩いてみせる。
ここへ座れ。
その手がそう言っている。
「…ありがと」
木の葉を払い
空いたスペースに浅く腰掛けた。
ひんやりとしたここは
まるで別世界のよう。
夏から切り離されたこの空間に、
校舎を挟んだ向こう側から
運動部の掛け声が響いてくる。
人付き合いは苦手だけど、
こういう賑やかな生活音は嫌いじゃない。
ただの偶然だとわかってはいるけれど
こんな場所を提供してくれたこの人に
少なからず感謝をするのだった。
そのせいか、
私の気持ちは緩みに緩んでいたに違いない。
「私ね、ちょっと変わってるらしくて、
みんなとは考えが違うみたいなんだ。
それで、小学生の時に、
友達の事、傷つけちゃって…」
でなければ、こんな話
きっとしなかったと思うんだ…
ジャッ、と鉛筆がキャンバスに擦れる音に
昔話を紛れさせた。
彼はピクリとも動かず、
ひと言も発さずに
ただ耳だけを貸してくれていた。