第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
気になる所は多数ある。
だけど、
それを訊いてしまったら
睦は途端に
元に戻ってしまうんじゃないか。
また、
本音を隠したおとなしい睦に
戻ってしまうんじゃないか…
そんな予感がしていた。
だから、その疑問は
こっそりと…俺の胸の中に仕舞ったまんま。
「あぁ、でもオレンジおいしかった。
次は絶対に生チョコバナナミルク飲も」
看板を真剣に眺めながら
まだそんな事を言っている睦。
よっぽどここが気に入ったな。
「夏にチョコバナナは無くねぇ?」
「なんで⁉︎おいしいのに!」
勢いよくこちらを見上げた睦の手から
カラになったプラカップを取り上げた。
「うまいうまくねぇは関係ねぇの。
夏だし、もっとこざっぱりしたモンの方が
良さそうな気がしただけだ」
外に設置されているゴミ箱に、
自分の分と一緒に捨てに行く。
「…ありがと。
でもお祭りでチョコバナナ売ってるよ」
こんな時でも、ちゃんと
礼を述べる睦が好きだ。
「はいはい。睦チャンは大好きなのね、
チョコバナナ」
試しに名前を呼んでみたけれど、
「なんか…バカにしてない?」
別段、気にするふうでもなく…。
「してねぇよ。ほら行くぞ」
俺は制服の胸元を指でつまんで
パタパタと風を送る。
もう日も陰り始めたってのに
なんだこの暑さは。
しゃがんでいた睦は
脚と腹の間に挟んでいたキャンバスを持ち直し
スッと立ち上がった。
「甘いものは地球を救うんだよ」
先に立って歩き出した俺の後を追いながら
よくわからねぇ事を言う。
「…愛じゃなかったか」
「違う。甘いもの」
甘いもの、ねぇ……
確かに甘そうだ。
生チョコバナナミルク…
夏の喉に張り付きそうな
もったりした感じが想像できた…。
「ところで、その絵はいつ描く?」
「いつなら時間空いてる?」
時間なんか空けなきゃ無ぇけど、
睦のためならいつでも空けてやる。
とは、
言えるはずもなく、
「俺はいつでも…」
その程度にとどめた。