第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
渡り終えてスピードを緩めた彼は
私を振り返り喚く。
「その鈍角で刺されんの
地味にいてぇんだぞ!」
「何で走るのー!暑いのに!」
「渡りたくなるモンだろー」
「点滅したら渡っちゃだめなのー」
「出たな優等生」
「当然の事でしょ!あームダにあっつ…」
「んっとに…あっちぃなぁ…」
彼は額に手をかざして
空を見上げた。
傾いた太陽はまだまだ暑さを放っている。
「もう…走るとかあり得ない…」
がっくりと項垂れた私は
未だに私の手首に絡みついている手を
振り払おうとした。
「運動不足じゃね?体育もサボってんのか?」
でも、その手は……
「体弱いの」
なかなか…
「ウソつけ」
離れない…!
「ていうか離してくれない?」
「まだだ。ほら、喉乾いたろ」
まだ?って何?
ん…?喉?
「喉乾いた…」
「ほら、あの角に…」
私と目線を合わせてくれた彼は
長い腕を伸ばして、
その角を差し示した。
文句を言っていたはずなのに
そうされると素直に目を向けてしまう。
「あそこのスムージー、
フルーツそのまんまですっげぇうまい。
しかも氷入ってるからめっちゃ冷てぇの。
買ってやろうか」
「飲みたい…!」
なんて素敵な誘惑…
冷たいフルーツジュース…!
暑くて、疲れて、喉乾いていて…
こんな状況でそんな情報を仕入れてしまったら
喉の渇きは最高潮を迎えてしまうではないか。
「よしよし。じゃ行くぞ」
ご機嫌な彼は
手首を掴んだまま歩き出した。
……別に捕獲されてなくても、
逃げたりしませんけど。
ジュース飲みたいし。
吹き出した汗。
喉はカラカラ。
そこへ流し込まれた水分は
喉だけではなく
全身を潤して行く。
干からびた細胞が
水戻しされたみたい。
ストローの先から流れ込む幸福は
何ものにも変え難い…
しかも、
「おいっし!」
彼の言った通り
すっごくおいしかった。
私が頼んだのはオレンジで、
ホントに実を食べているみたいな旨味。
あまーいのに少し酸味が残って
すごくさっぱり爽やかだ。
「んー…生き返るな」
「私次来たらバナナミルクにしよ」
「何。じゃ俺マンゴーにしよ」