第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
笑ってる方がいい。
そうやって、
俺の前では笑っていればいいのに。
「あのね、私に絵の描き方教えて…?」
私が訪れた先にいた、
苦手な人物…
最初こそどうしようと思っていたのに
すべて危惧に終わり、
私の思い過ごしだった事がわかった。
…いや、実際、
ものすごい形相で睨まれていたけど。
でもあれは、
私のことが憎くて睨んでいたのではなく
ただ仲良くなりたかっただけだと言う。
私は、
……何でもないフリが出来ていただろうか。
彼の言う『仲良くなりたい』が、
一体どこまでなんだろう?と
おかしな事を考えてしまったのだ。
だって、
私の事を『好きだ』と言った。
私からそう言うように仕向けたのは、
…まぁそうなんだけど。
しかもその『好き』には
色恋の類は含まれてなんかいないんだろうけど。
でなければ、あんなふうに簡単に
気持ちの告白なんかできるだろうか。
だけどそう言われて
ドクッと、…痛いほど心臓が反応した。
また私は、勝手な思い込みで…。
昔からの悪いクセ。
感情がないように振る舞うのって
未だに慣れないなぁ…
だけど……
あぁ、…びっくりした。
「このくらいは?」
目の前に差し出されたのは、
学校でやるテスト用紙くらいの大きさの
真っ白なキャンバスだった。
「こんなにおっきいの?」
「あぁ、最初はこれくらいが
描きやすいと思うんだけど」
「もっと小さいのかと思ってた」
「あんま小さすぎても描きにくいぞ。
絵の具ひと乗せしただけで
いっぱいになっちまうからな」
「そういうものなんだ…」
さっき美術室で、真っ白なキャンバスを
それは美しい色に染め上げていた彼。
スルスルと表情を変えて行くキャンバスは
本当に素敵で、
しかもあまりにもしなやかに染まって行くから
絵なんか授業以外で描いたこともないのに
ちょっとやってみたい、
私にも出来るんじゃないかって、
…大きな誤解をしてしまったのだ。
そうして彼は、
私が言った『絵の描き方』を教えるべく、
こうして、画材屋さんに
私を連れてきてくれているというわけだ。