第43章 無償の愛
呆けたような目をして
俺の腕の中に収まっている睦の目尻に
涙の跡を見つけた。
乾き切ったそこを指で撫でても
跡が消える事はなく、
俺はそこに舌を這わせる。
涙まで甘く感じるなんて
俺は本当にどうかしているんだろう。
その感覚にぴくりと反応をして
睦は目だけで俺を見た。
その目がひどく、色を帯びている。
さっきまでの熱が、まだ冷めやらないのか…
まだ足りない俺の勘違いでなければいいのだが。
「睦…」
名を呼ばれ、半分眠ったようだった瞳が
そっと見開かれていく。
「睦、…戻って、来られる?」
どう見たって、
そこから戻って来られてねぇよな…?
迷子になって、
俺が迎えに行くのを待ってるのか?
「え…?」
そんなにうっとりとした瞳で凝視められると
どうしたものかと少し悩む。
俺との情事に耽った睦が、
こうして浸っている姿を見るのは
嫌いじゃない。
いやむしろ心地いい。
だってそれは、俺に溺れているという事だから…
「お前がそこに居るのなら、
…俺もそっち行ってい?」
「…な、に…?」
掠れた声がまた、俺の欲を駆り立てる。
もっと、俺に狂えばいい。
俺しか見えないように、狂ってしまえばいい。
「…ん、ぅ…ふ、っ」
出来るだけ優しく口づけながら、
睦の上にのしかかる。
少し拒むような素振りを見せた睦は
顔を背け俺の口づけから逃れて行った。
それを追った俺を押し戻し、
「…も、だめ」
悩ましげに眉を寄せる。
ダメ、なんて事があるだろうか。
そんなに熱を、燻らせているくせに。
うまいこと避けながら
「や…、いや…」
力無く俺の腕を掴んだ。
「睦…好きだ、」
そうやって言葉で気持ちを伝えると
睦の動きが一瞬止まった。
口唇を避ける事ばかりに気を取られ
ガラ空きになったカラダ。
乱れた襦袢から覗く、
薄い肩にそっと歯を立てる。
「いっ…ん…!や…っずるい…」
俺の肩に両手を充てて身をよじった。