第43章 無償の愛
俺は相変わらずお前だけ。
睦が良きゃ、それでいい。
「じゃ私、ちょっと行ってきます」
嬉しそうな微笑みを浮かべ
睦は俺の手からすり抜け手を離すと
スッと立ちあがろうとする。
俺はそれを慌てて止めた。
「待て。どこ行くって?」
「台所ですよ?お昼の支度をしに…」
おいおい…
「こら、それじゃ普段と変わらねぇだろ?」
「あ…」
睦は初めて気付かされたように
中腰のまま目をまん丸に見開いた。
「でも…っ、お腹は、空きますよね?」
「メシより大切なモンがあんの」
立ちあがろうとした際に
テーブルに掛けた両腕を盗み、
グイとこちらに引いてやる。
「ぅわっ‼︎」
否応なしにこちらになだれ込む睦。
支えきれず、片膝をテーブルの縁に掛けた。
引いた腕を俺の肩に掴まらせてから
両手で睦の腰を掴み上げる。
ふわりと浮いた身体に、
テーブルの向こう側にいた睦は
「わっ…待って待って…!」
突然の浮遊感に慌て
俺の肩を強く握りしめた。
そこを軸にして、持ち上げた身体を
テーブルのこちら側に連れてくる。
そうして多少荒く俺の膝の上に乗せた。
胡座をかいていた片膝を立て、
睦の身体を包む。
くの字になった睦は畳に足もつけず
多分逃げられはしないだろうが
念のためにぎゅっと抱きしめておこうかな。
「宇髄さん!言ってくれれば来ます!」
よっぽど怖かったのか
睦は多少ご機嫌ナナメ。
「近道したんだよ」
「テーブル乗り越えるなんて…!」
「悪ィ悪ィ、待てなかったの」
睦は振り上げていた拳を、
力無く俺の肩に落とした。
とん、と突いた瞬間、
「………うん、」
こてんと首元にもたれ掛かる。
心地好い重さを受け止めながら
ある疑問に行き着いた。
…うん?
俺が言った『待てなかった』への同意?
それとも単なる理解…?
「…私の不安は、伝わりますか?」
「んー?」
「私が不安だったから、
こうしてくれてるような気がしたから…」