第43章 無償の愛
「ご名答」
たどり着いた自室を覗くと
テーブルの上には湯気を立てる湯飲みと茶菓子。
「…あれ、お前のは?」
「私の…」
あ、と呟いて
「考えもしませんでした…」
少しだけ焦ってみせた。
そして睦は俺を見上げ、
「淹れて来てもいいですか?」
おずおずと尋ねる。
「あぁ、いいよ。……アレ、一緒に飲むか?」
「飲みません!」
「あっそ」
俺1人に茶を飲ませるワケにはいかない事を
わかっている睦は、
そそくさと台所に戻っていった。
事あるごとに遠慮をする睦に
『自分の時のことを考えろ』と
ある日俺は提案してみた。
例えば今なら、俺の前で
自分1人だけが茶を飲む姿を想像しただろう。
それが淋しいとでも思ったのか
俺に1人で茶を飲ませたらいけないと
考えたはずだ。
いい傾向。
そうやってひとつずつ解決していけばいい。
自分にはそんな価値がないとか、
睦の自己肯定感の低さは
驚くべきものだ。
どれだけ押さえつけられ、
否定され続けて来たんだろうな。
それでも腐らずにいてくれて
ひどくホッとしていた。
俺が褒めた時の、照れて嬉しそうにする顔と、
したい事をしてもいいとわかった時の
パッと輝くような笑顔が、
俺はたまらなく好きだ。
だから、何でもさせてやりたくなる。
悪いクセだと知りながら
やめる事ができない。
あの顔が見たいが為に。
「あれ…座らないんですか?」
廊下側から戻って来た睦は
未だ縁側に立ったままの俺を見つけ
不思議そうに言った。
「あぁ…」
俺が座るまで座らない事を知っている俺は
部屋に入って座布団に腰を下ろす。
俺に続いてテーブルの端に自分の茶を
盆ごと置いた。
もっと真ん中に来いと
指でテーブルをトトっと叩く。
少しだけ悩んだふうにした睦は
小さく微笑んで俺の正面に移動した。
「腹は減らねぇの?」
そういえば朝メシを食ってなかった…
「お腹は…」
「握り飯くらいならすぐに作ってやれるぞ?
冷や飯で悪ィけど」
「えぇッ?宇髄さんが作ってくれるの⁉︎」