第43章 無償の愛
「お茶が入りましたよー」
縁側から俺を呼ぶ愛しい声につられ
そちらに顔を向けると
にこにこと微笑んでいる睦が立っていて
さっきまでゴキゲンナナメだったのが
ウソのようだなぁと感じていた。
独りにさせろと山の中に駆け出した睦を
無理やり木の上へと連れて行き
身動き取れねぇようにしてやった時は、
高所による恐怖に涙しつつも
激発丸出しで俺に悪態をついていたが、
広がる朝の景色を見て少しだけ機嫌が直り、
俺がぎゅうっと抱きしめると
また少しだけ機嫌を直し…
地面に降り、手を繋いで引いてやると
もうそりゃあ嬉しそうで、
そのまま屋敷に向かっても
文句ひとつ言わずに黙ってついて来た。
俺に悪い事をしたんじゃないか、と
睦はふわふわと…
何となく何が起きていたのか
わかっているふうだった。
ただ輪郭をはっきりとは捉えられず
不安定な気持ちを抱えているようで…
俺がそれをどうしてやれるかって言えば、
一緒に居てやることしか浮かばなかった。
それくらいしか出来ねぇのがもどかしいが
ここまで来た道すがらの睦の表情を見る限り
それもあながち間違いではねぇのかな、なんて、
…多分、独善的な考えなんだけど。
「……大丈夫ですか?」
「え?俺?」
庭の真ん中から縁側へと辿り着き、
履物をぬいで1歩、内縁に足をかけた時、
睦はさも心配げに
俺に声をかけた。
それに対してマヌケな返事をしたのは
あまりに唐突だったのと、
正に的を射ていたのとが相まっていたからだ。
多分、睦の事を考え過ぎて
全然大丈夫ではなかった故の返事。
「あぁ、ちょっと考え事」
睦と同じ高さに立ち
背丈の差がいつも通りになった所で、
ぽんぽんと小さな頭に手を乗せ
淹れてくれた茶を飲みに部屋へと向かった。
その後をいそいそとついて来て
「深刻な?」
俺が撫でた後を自分の手でさすっている。
なにそれ、余韻を味わってる感じ…?
可愛いな相変わらず。
「俺にとってはな」
「……私の事?」
遠慮がちな問いに、俺はつい振り返る。