第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
睦と鬼との悲壮感漂う会話は、
鬼が朝日に焼かれた事で終わりを迎えた。
俺に縋る睦に
かけてやる言葉はなかった。
俺の名を呼ぶだけにとどめた睦も
それ以上何と言えばよかったのか
わからなかったのかもしれない。
あんなに涙を流していた睦だったが
辺りが静かさを取り戻した瞬間、
呆けたようにあちこちを見渡して
ふと、俺に気がついた。
「…宇髄さん…?」
あまりのショックに、
記憶障害にでもなったのかと思うほど
ほんの今までの睦とは
まるで別人に見えた。
まさかとは思ったが、…
「……あの、…」
戸惑いと困惑が入り混じった声。
すべて、覚えていないようだ。
覚えていないどころか、
まるでなかったような反応。
『でも大丈夫。君はすぐに…忘れるからね…』
あれは、そういう意味。
睦の中の記憶ごと
持って行っちまったんだな。
あんだけ泣いていたんだ、
助かったと言えば、助かった…
鬼畜生の記憶なんて
邪魔な、だけだ。
「そんなカッコで外に出たらだめだろ?」
俺は出来るだけ何でもないふうを装って
睦の身体を抱きしめ直した。
「…ほんとだっ‼︎」
自分を見下ろした睦は
びっくりして目を剥く。
「すぐ身体冷えるんだから、
薄着でうろつくな」
「そっ外に出た覚えなんかないんです、けど」
「…どうした」
「私、…泣いてません…?」
風が吹いて、
自分の頬が濡れている事に気がついた…
あったことを無いように振る舞うのは
結構しんどいな。
「…そうだな、どんな夢見てた?」
「夢…」
実際、悪夢を見ただろう。
そういう事にしておこう?
「見てたのかな…」
「どうだろうな。ほら、中に入ろう。
あったかいモンでも作ってやるから」
「…宇髄さん、」
睦の肩を抱き
1歩踏み出した所を呼び止められる。
「何だ」
記憶の糸を辿るように
少しだけ上方に目を向けながら
「…いつ…来たの、?」
きゅっと首をひねった。