第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
「怖い?」
そう訊いてみると、
睦ちゃんはうん、と頷きかけて
大慌てでかぶりを振った。
大方、怖いなんて言ったら
僕にいじめられるとでも思ったんだろう。
「最初はね、そのつもりだったんだよ」
「…ん、…?」
睦ちゃんは更に
自分の口を強く押さえた。
余計なことを言わないため…?
「最初はね、
美味しく頂くつもりだったんだ、君のこと」
彼女の小さな身体が
ぞわぞわっと痙攣した。
あらら…
「怖がらせる気はないよ、
最初はそのつもりだったけど
やめたって言いたかったの」
「……」
僕に抱きしめられながら
もたれかかって来るでも
身を反らして逃げるでもなく、
声を漏らさないようにだけ
ものすごく気をつけている。
「そんなに縮こまらなくても大丈夫。
ずっと一緒にいたじゃない…」
「…えぇ…?」
睦ちゃんは驚きを隠しもせず
その目を僕に向けた。
「ごめん、知らないよね。
君の大切な人になりすまして
…ずっと一緒にいたんだよ、」
「………ど、して…?」
そう訊いた声が震えている。
「…僕のこと、怖い…?」
「…っ、」
睦ちゃんは『ちがう』と首を横に振った。
困ったコだねぇ…
「ホントのこと言っていいんだよ?
君のこといじめたりしないから…」
「………」
そんなの、無理な話か。
怖くないわけがないよね…
小さなため息をついて、
少しでも安心させるために
にっこりと笑って見せた。
すると、それが功を奏したのか
「怖い、です…。だけど、大丈夫…」
緊張をしながらも
睦ちゃんははっきりと答えてくれる。
「…ありがとう。ごめんね、」
「なにが、ですか…?」
「うん?んー…怖がらせるつもりはないのに
僕が相手じゃ、怖いよなぁと思ってね…」
「だって…」
「そうだよね…自分を食べるつもりでいた鬼を
怖がらないわけがないよ」
「ど、して…やめたんですか…?」
睦ちゃんは
自分の手を強く握り合わせながら
じっと僕のことを見上げた。
あぁ…僕を見てる。
本当の僕を…