第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
何かをしきりに呟いて、
それが宇髄の名を呼んでいる事に愕然とした。
「…ここに、いるよ?」
抱き寄せようとする僕の胸に両手を突いて
更に首を横に振った。
みんな、…今までのみんなは
誰も彼もうまいこと騙されてくれた。
見た目はもちろんのこと、
話し方や仕種まで
その子が知ってる相手そのままに
…見たいように見て
聞きたいように聞いてくれるから
疑う余地なんか無いはずだったんだ。
それを君って子は、気づいてしまったの。
そうかぁ…
僕のまやかしには乗ってくれないんだね。
見た目には騙されない?
本能で感じてるみたいだ。
そんなに、あいつが大事?
僕じゃ足りなかったのかな。
何が、違ったんだろう。
「…う、ずい、さん…ぅず……っ」
そう…
あの人もそうやって泣いてたっけ…
「睦ちゃん、
…心が壊れちゃうよ…!
僕を、認めることは出来ないの…?」
「…ひっ…く、…うぅ…宇髄さ、ん」
目に入る情報を、心が拒んでいる。
必死になって撥ね付けている。
「…わかったよ、
わかったから、そんなに泣かないで…?」
よしよしと頭を撫でてから、
「ごめん…僕の目を、見ててね」
真っ白な頬に手を添えて
こちらを向けさせた。
まだ涙の浮かんだ双眼。
軽く瞬かせた時、新しい雫が
頬に添えた僕の指に落ちた。
光を失っていた瞳が
息を吹き返したかのように
輝きを帯びていく。
もしかしたら、朝日のせいかもしれなかった。
「……っ、あ…ぁ、」
僕を僕として認識した睦ちゃんは
泣いていたのも忘れて
みるみる目を見開かせて行く…
青ざめた顔を恐怖に歪めた。
「怖がらないで…!」
散々泣かせた後に
今度は怖がらせるなんて
そんなの嫌なんだ。
「…っ、」
それでも声を上げないように
両手で口を押さえ
うんうんと頷いてくれる。
「…ありがとう、優しいコ…」
つい抱きしめて…
ビクッと肩を跳ねさせた。
しまったと思ったけれど
もう抱きしめちゃったし
今更やめた所で取り返しのつくものでもない。
どうせ最後なんだから
抱きしめさせてもらってもいいよね。