第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
降り立ったのは、山の入り口。
つまるところ、
睦ちゃんの家の前だ。
意表を突いて戻ってきた。
宇髄はまだ、山の中だろう。
さすがにあの速さにはついて来られないはず。
消えたように見えていたらいい…
人間にしては優秀だった宇髄。
でも、少しの時間稼ぎにはなると思った。
「睦ちゃん…
また連れ回しちゃったね…」
定まらない視点。
朦朧とする睦ちゃんを
ゆっくりと地面に下ろす。
強めた血気術。
そのせいで睦ちゃんは
宇髄どころか僕の認識すら危うい状態だった。
でも、やむを得なかったんだ。
だって…君が術を破ろうとするから。
そんなに強く、宇髄を思っているの…?
「睦ちゃん、…僕を見て?」
話しかけると、
かろうじて言われた事はわかるのか
少しずつ少しずつ、僕を見上げてくれた。
「…宇髄、さん…?」
「うん…」
宇髄、か…
「そうだよ、睦ちゃん…ごめんね、」
何故か謝ってしまった僕を不思議そうに見上げ
「ど、したの…だいじょぶ、よ…?」
あぁ…この子は…
この子はあの男でいっぱいだ。
僕の術のせいで、正気を失っているというのに
それでも宇髄の心配をする。
羨ましいな…
こんな素敵な女の子に思われている宇髄が。
僕も、好きになったあの人から
こんなふうに愛してもらいたかった…
…あれ?それはもしかして、…
人間だった頃の記憶…?
どうして急に、
そんな事を思い出したりしたんだろう。
ひとり頭を悩ませていると、
目の前にいる睦ちゃんの瞳から
涙が溢れているのが目に入った。
「…睦ちゃん⁉︎どうしたの?」
どうしよう、全然気が付かなかった。
僕は慌てて彼女を抱きしめた。
力無く垂れていた小さな両手が僕の腕に掛かる。
あれ?と思った瞬間、
小さく首を横に振り出した。
「睦ちゃん…?」
どうしたのかと思っていると、
「…ず…さ、…」
溢れる涙を拭いもせずに
睦ちゃんは虚な瞳を揺らしている。