第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
そんな姿を目の当たりにして
俺はもういてもたってもいられない。
そんなふうにお前を泣かせるヤツを
俺だなんて思うなよ…!
「泣くな睦…!
俺はちゃんといるから。
絶対ぇにお前を独りになんかしねぇ。
もう淋しい思いなんかさせねぇよ…
ずっと一緒だって、約束したもんな…?」
鬼から奪った睦を
強く抱きしめる。
何年も離れていたかと勘違いしそうな程、
睦を遠くに感じていた。
こうして腕に抱くと、
そんなものウソのように消え失せる…
「ぇ……うずい、さん…?」
幻の中にいる睦が、
俺に向かって正しい名を口にした。
ハッとしたのは俺だけではない。
俺らの絆に、壊れかけた幻術。
まさかの事態に慌てた鬼は
「睦ちゃん!危険だから離れて。
ほら、いくよ、おいで…?」
睦の目を覗き込み
目力を強めた。
カクンと傾いた小さな頭。
「…はい」
機械的に返事をして
俺の手を離れていく睦。
「睦!」
心を呼び戻したい。
俺を見てほしい。
だが、睦は振り返る事なく
鬼の腕の中へと収まった。
「仮の姿なんかじゃなく、
本当に振り向かせてやるから…!」
腹立たしいひと言を残して
鬼は睦を連れて姿を消した。
ほんの一瞬の出来事だった…
気配が一切なくなって、…
本気を出したのだと感じる。
あの、妙な血気術。
瞬時に気配を消せるほどの俊足。
弱い鬼じゃねぇ。
だけど…
弱点が出来てしまったな。
俺の女を奪おうとした報いだ、と。
そう言ってやりてぇところだが
睦に惹かれる気持ちはよくわかる。
だからと言って譲るつもりは一切ねぇし
取り返す気満々だから。
俺は睦の気配を探りつつ、
小屋の外に出た…。
月はすでに西の空に差し掛かっている。
夜明けが近い…!
急がねぇと…
広がる夜空を見上げながら
俺は大きく息を吸い込んで
元来た道を辿るのだった…