第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
「あ……」
俺に向かって何かを言いかけた睦を
まるで引き止めるかのように抱き直し
「睦ちゃんは僕のだから!
見たでしょ?僕の所へ帰って来た。
君のじゃないよ、術は解かないから
もう一生僕のものだ」
鬼畜生が喚いた…
「一生、だと…?
てめぇ睦を、どうするつもりだ…
…喰うんじゃねぇのか」
にわかに信じ難く
さっきまで俺の中を渦巻いていた憎悪も
治まるくらいの衝撃を受けていた。
いや、もちろん喰われてほしいワケじゃねぇ
ただ…コイツはそのつもりでいるとばかり…
「てめぇまさか…」
「何の事を言ってるのさ!もう…
睦ちゃんの事は諦めてよね!」
鬼は睦を抱いたまま立ち上がり
朽ちた屋根の隙間を狙って
飛びあがろうと体制を整える。
それを阻止したのは、
俺じゃなく、
驚くかな睦の方だった。
「睦ちゃん…?」
戸惑いの声を上げる鬼に、
「待って下さい…。
今の会話、どういうことですか?」
睦はそれに輪をかけて戸惑っていた。
俺と鬼の顔を見比べて
「私…この人の事を知ってるんですか?
それは、さっきから宇髄さんが
おかしな事と関係があるんですか…」
俺がおかしい、という事は、
睦はあの鬼が俺になりすましている事に
違和感を覚えているということになる。
目が見えていれば、
誰しもがそれに頼る。
頼るばっかりに
大切な事を見落としがちになるのだ。
それなのに…睦は
目に見えない部分に気がついている。
半信半疑ながらも、
散らばったはずの小さなカケラを
少しずつ集めてくれていたのだ。
俺は希望の光を見たような気がした。
なのに、
「よくみてごらん!あんな男、
睦ちゃんは知らないよね⁉︎
僕だけを見てないと
ひとりぼっちになっても知らないから!」
鬼はまた睦を引き摺り込もうとする。
強く言われた睦は
大いに慌て出し、
「や、だ…そんなこと…言わないで。
ごめんなさい、もう1人になんかなりたくない、
宇髄さんが居てくれなきゃ私…っ」
大きな瞳から涙を零した。