第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
弾かれたように、私は鬼へと振り向いた。
……
宇髄さん、と、呼んだのに、
鬼が返事をするなんて…
割と距離があるというのに
あの声が届いた…
驚いてつい凝視めてしまう。
と、目が合って、しばらく凝視め合った末…
美しい鬼は
私に笑いかけた…
その瞬間、どうしようもなく心臓が跳ねた。
…なんで⁉︎
どうしちゃったんだろう。
だって、すごく優しい目をしていた。
心がほんわかするような微笑みだった。
知らない顔だし………
そもそも鬼なのに知っているわけがない。
だけど、懐かしいような、
ずっと昔から知ってるみたいな笑顔だった。
「睦?」
宇髄さんに呼ばれてハッとした。
彼の方に顔を戻すと
私を抱えたまま走り続けていた宇髄さんが
「しっかり掴まって!」
身を起こしていた私に指示を出す…。
…掴まって
その言い方が、別人のようだった。
宇髄さんならきっと『掴まってろ』って
言わないかな…
そんな言葉遣いするかしら。
口は悪いけど優しいのが、
宇髄さんなんじゃなかったかな…
バタンと閉まったのは、
朽ちかけた山小屋の戸だ。
鬼の隙をついて、
真っ直ぐに走って来た山の中を
ぐーっと迂回して戻った場所で
宇髄さんが見つけた小屋だ。
背の高い木と木の谷間にあるせいで
月の光もとどかない。
真っ暗な小屋の中だけれど
座り込んだ宇髄さんの脚の間から
ぴったりと身を寄せた私には
安心しかなかった。
「ありがとうございます…
疲れましたよね?私を抱えたまま…」
「俺は大丈夫だ。
睦こそ怖かったろ」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕はあたたかく
私の緊張をほぐしてくれる。
「宇髄さん…?」
「ん?」
「…戦わないのは、私がいるせい…?」
私はそっと目を閉じた。
「え…?」
視界を塞ぐと、見えないものが見えてくるって
前に宇髄さんが言っていた…
何となく試したくなって実行してみる。
寄り添わせた頬に当たる
厚い胸の感触はいつもと同じ。
私の鼓膜を震わせる優しい声音も変わらない。
「私が邪魔で、
鬼と戦えなかったのかなって思ったから」
少し申し訳なくて俯いた。