第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
最初は怖かった。
だって鬼が追いかけてくるのだ。
私目掛けて。
怖くないわけがない。
いや、別に向き合っているだけの話で
私を目掛けて来ているわけでは
…多分ないと思うんだけど。
それにしても、鬼って本当にいるんだな…
ツノがちゃんとある。
おでこから肌を突き破って…。
何か悪いことするのかな?
宝物奪ったりする?
…私、そんなもの持ってないけど…
でも、
さっきからどうした事か
少しの違和感が私を襲っていた。
鬼、というものが、
…あんまり怖くないって事だ。
いや、捕まりそうで怖いんだけど。
何をされるのかわからなくて
怖いんだけど…。
でもどうしてだろう。
この鬼は、あんまり怖くないように感じる…
漠然とだから、理由なんかわからないけれど。
それと、宇髄さんは、…
どうして逃げているんだろう。
さっきから私の目の前で
チャラチャラと鎖が揺れている。
大きな刀の柄を繋ぐ鎖だ。
立派な2本の刀が
広い背中に張り付いている…
普段はこれを使って戦っているはずなのだ。
宇髄さんは何も教えてくれない。
私が訊かないから。
どんな仕事してるのって訊いたら
もしかしたら教えてくれるのかもしれない。
でもこの人なら、
必要な事は訊かなくたって教えてくれる。
キズだらけで私の家に来る事だってままあった。
あれだけのキズを負うほどの乱闘を
日々繰り返している事だけはわかっていた。
だけど、こうして目の当たりにしてしまったら
何も訊かなくたって全てわかってしまう。
鬼、とやらを倒す為に…
人間が安心して暮らせる世にするために。
戦っていたのよね…?
なのに、どうして逃げるだけなんだろう。
あれ?…私がいるせい?
そうか、私が邪魔してるの…
「宇髄さん…」
耳元では過ぎていく風がゴオゴオと
音を鳴らしている。
そんなものに邪魔されたくらいで
耳のいい宇髄さんに聴こえないはずはない。
彼の肩に手をついて半身を返す。
宇髄さんの横顔を眺めながら、
もう1度呼びかけてみたけれど
彼はまったくこちらを見てくれなかった。
その代わり、…
「どうした睦!」
思わぬ方向から返事が来た…。