第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
どうやら僕は、
本当の意味で恋してしまったようだった。
困った事に、
この子をどうしても食べる気になれない。
それが何よりの証拠だ。
違う違う。
この力は、相手を僕に恋させるものだ。
僕に恋心を抱かせ、すべてを委ねた所で
その人間を食うと…
そういう算段のはずなのに。
どうして僕の方が恋しなくちゃいけないんだよ。
「あの時も、落ちないようにしてくれた。
昔から宇髄さん優しかったね」
ふふふと無邪気に笑って
僕の胸に頬を寄せる。
たったそれだけの事で
どうしてこんなに胸が苦しくなるのか。
おいおい、
こんなご馳走を前にして
食さない手はないでしょう…?
すっごくおいしそうな匂いさせてくれちゃって…
何のためにこんなに面倒な事に
巻き込まれたと思ってるの。
——だって…僕の事を見てほしいって、
思ってしまったんだ…
どうしよう…
この子が見てるのは、僕じゃない。
それがとてつもなくイヤだ。
と、
暗闇の中から
「…っ…てぇめえぇッ‼︎」
地を這うような唸り声…
ヤバ!宇髄来た‼︎
「ごめんね睦ちゃん」
「え…うず、っひやぁ!」
咄嗟に睦ちゃんを抱えて
違う枝へと飛び移る。
「待ちやがれ‼︎睦置いてけ‼︎
仲良さげにしやがって!俺の女だぞ!」
「今は僕のだ!絶対に渡さない…!」
「ンだとこのやろうがぁ‼︎」
「今君に返したって怖がるだけだよー」
「…っ‼︎…の、やろ…妙な術解きやがれ!」
「絶対やだ!睦ちゃんを
怖がらせないためにおとなしくしてて!」
「黙れ!睦の名を軽々しく呼ぶな畜生めが!」
鬼の僕よりも鬼みたいな顔して
めちゃくちゃ追いかけてくる宇髄は
さっきよりも数段、速さが増していた。
大切な女の子を守るために
限界を超えていると思った…
さっきから、宇髄さんが鬼から逃げている。
その後ろを、ものすごい殺気を放ちながら
美しい鬼が追いかけてくる…
私は宇髄さんの肩に担がれる形で…
つまり後ろ向きに走っているみたいな格好だ。