第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
「ぎゅってしてれば怖くないかな?」
少し頬を染め、
「…うん、」
はにかみ俯いてしまった。
その仕種に、僕の胸が小さく音を立て始める。
彼女の目には僕じゃなくて
あの宇髄という男として見えている。
僕が手に入れたように見えて、
彼女は未だ宇髄のものだ。
だってこうして僕が話している言葉だって
睦ちゃんには宇髄の言葉に聞こえているんだろう。
あんな、崩れたような言葉遣い、
僕には到底出来たものではない。
なのにこの僕の言葉が
彼女には、きっとそう聞こえている。
何故なら僕は僕ではなく、
宇髄として見られているから。
彼女はいわば、僕に洗脳されている。
僕を宇髄だと
彼女の脳が勘違いしている状態なのだ。
だから僕の言葉遣いも
彼女の頭の中で変換される。
僕の顔も、彼のものに書き換えられてしまう。
あれ?
——それで、いいんじゃないだろうか?
そうだ、僕の力はそういうものなのだから。
そうでなくちゃいけないんだ。
捕食対象の想い人になりすまし
安心させた所を食い殺す…
それが僕のやり方だった。
そうだよ、何を考えてるんだろ。
僕の葛藤をよそに、
彼女は脚を交互にぶらぶら揺らして
「宇髄さん、こうしてると昔を思い出すね」
にっこり笑って僕を見上げた。
視線が合うと、
なんとも言えない愛しさが込み上げてくる。
だけど…
僕に話しかけていながら、
僕の事を見てはいない…
尚もそんな事を考えてしまう僕。
なんとも情け無い…
「そうだね…」
事情を何も知らない彼女に話を合わせた。
そうするより他なかったから。
昔ってなぁに?
何があったの?
そう訊きたいけれど
そんなことをしたら間違いなく
君をキズつけてしまう。
大切な思い出を忘れられたら悲しいよ。
僕は今、宇髄なんだ。
君は宇髄との思い出を語っているから…
例えば君の中で、僕が僕でなくたって
僕は君に
そんな顔をさせたくないから。
どうしてもそんなバカな事を考えてしまう。
それとは裏腹に
さっさと食べてしまえと叫ぶ自分もいた。
いつもしている事だ。
…そう、いつもと同じだったはずなのに……