第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
小さな女の子を抱えながら
山の中を走っていた。
何かから逃げるのは得意。
僕は昔から、走るのだけは速かった。
何に追いかけられても
すぐに逃げることが出来る。
この足は最強の武器だ。
それにしても、軽いなぁ…
ちゃんと食べてるのかな。
僕が食べる所あるかしら。
そう心配になるくらい小さな身体。
さっきの男とはまるで正反対だ。
あんな図体のでかいのが
こんなに儚い女の子をどうこうするなんて
もう、処刑みたいなもんじゃない?
女の子は大切に扱うものだよ。
この子との出会いは…
と言ってもついさっきだけども、
かなり衝撃的だった。
顔が見えなくて不安に震えたこの小さな手も
相手が誰なのかがはっきりした時の
安心しきったあの顔も、
その後、全力で心配してくれた態度も…
何もかもが可愛らしく見えた。
僕はすぐに恋するクセがあるけれど
珍しい反応だったし
胸に刺さるものがあったな…
いやいや、でもさ…
この甘い香り…
これは間違いなく上質な獲物だ。
彼女は普通じゃない。
上質なって言っても、並大抵じゃない。
上の中以上だ。
今すぐにでも食べてしまいたいくらいだ。
さっきから口内が大洪水をおこしている。
なんて美味しそうなんだろう…
後からあの大きいのが追ってこない事を確認し
僕は手頃な枝に彼女を下ろした。
大きな木の太い枝。
彼女の小さなお尻なら充分座れるだろう。
「さ、ごめんね。ちょっと休憩しよう?」
万が一にも足を踏み外したりしないよう
ゆっくりと下ろしてあげる。
だけど、腕は僕にしがみついたまま
離れる気配がなかった。
「……どうしたの?
さっきのヤツならついてきてないよ?」
それが不安なのかと思ってそう声をかけたのに
彼女はジッとこちらを見上げながら
違う、と首を横に振る。
「…いじわる…。
高い所が怖いって知ってるくせに…」
困ったように下げた眉。
「そっか!ごめん!」
彼女の足が浮くくらい強く抱きしめて
「そうだね、ほら…これならどうかな?」
太い幹に側体をもたれさせ
枝の根元に座った僕は
その膝の上に睦ちゃんを乗せた。