第8章 続
「私が何度言っても戻っちゃうんですよ。
この間『さん』にしてもらったのに
今また様って呼ぶんです」
「何か悪いんか」
「悪いんじゃなくて。
おかしいでしょ、私に様なんて」
真剣に訴えてくる。
「そうかね。
好きに呼ばせてやりゃいいんじゃねぇの」
「やだ。宇髄さんから言ってくれたら
やめてくれる気がする」
「…じゃそのうち言っとく」
よくわからないまま承諾すると
安心したのかにこっと笑った。
「あぁ、美味しかった!
お片付けくらいしますね」
ごきげんで言うが、
敷布団に手をついたまま、固まった。
…
思い出したか。
何で俺が食わしてやったかを。
黙って膳を下げようとした俺を見た睦は
ぐすっと鼻を鳴らした。
俺はまさかと、睦を振り返る。
すると思った通り、涙目の睦がそこにいた。
…ウソだろ。
今の今、
メシが美味かったと笑ってたじゃねぇかよ。
咄嗟に攫うように抱きしめた。
…何か悪いこと言ったか。
俺は自分の行動を振り返る。
…俺も、こいつの涙にどんだけ弱ぇんだ…
「自分ばっかり動くんですね…」
「…は?」
「私、動けないんですよ。私のせいですか?
そんなに運動不足?」
悲しそうな声は徐々に震え出す。
「んな事ねぇよ。いいじゃねぇか。
いつも頑張ってんだから、
たまにはゆっくりすればよ」
「私はダメなヤツだ」
あ、やべぇやつだ。
昔のトラウマ発動してる。
「睦はダメじゃねぇ。
毎日ちゃんと頑張れるイイコ。な?」
「…」
睦は瞳を揺らして見上げてくる。
…まったく。
しょうがねぇなぁ。
「そんな睦にイイモノあるなー」
「…?」
俺は袂から、1つの髪留めを取り出した。
それを見た睦の目が
みるみる見開かれていく。
「…それ…」
「きれいだろ?俺の睦にぴったりだ」