第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
不思議に思って見入っていると、
突然沸いたように現れた何者かが
ガラス戸に背を思い切りぶつけ
ビシッとそこに亀裂が走った。
あ…っ、と
声を上げる間も無く、
パリパリパリっと亀裂を大きくしていき
最後にはグシャ、と鈍い音をさせながら
組子ごと押し潰ていく。
ガシャ——ン‼︎
と耳の奥が痛くなる程の大きな音がして
戸全体と共に部屋の中へと飛び込んで来た。
「…っ⁉︎」
爆風と共にガラスの破片が
そこかしこに飛び散ったのが見えた。
私は咄嗟に両腕で顔の辺りを防ぐ。
色んなものに曝されて
私の目も耳も肌も、髪の先までが震えた。
ゴオォ
と唸るような音が私の恐怖を煽る。
何があったのか、
何が入ってきたのか、
確認するのも恐ろしいけれど
舞い散る埃を手で避けながら
私は恐る恐る目を開いた…
「…けほ…っ」
耐えきれず、小さく咳をする。
空気が淀んで視界もきかない。
それでもなんとか目を凝らすと
埃で霞んだ部屋の中に、
見上げる程の大きな影がそこに立っていた。
「あぁ…ほんとに可愛いんだ…!」
聞いたことのない声。
「誰…?」
思わず1歩下がった。
知らない人が家の中にいるなんて
…しかも
家の一部を壊して侵入して来たのだ。
…怖すぎるでしょ…
「怖がらないでお嬢さん、
お名前を教えて下さいませんか?」
優しい声、穏やかな話し方…
それになんだか、
独特なこの香りのせいかな。
甘いような…でもただ甘いだけじゃなく
優美というか、鼻の奥にひっかかって
いつまでも消えてくれなくて…。
頭がボーッとしてくるんだ。
ふわふわする…
「可愛い…のぼせちゃったね」
モヤの中から伸びて来た細い指の背が
私の頬をそうっと撫でた。
「お名前、言えますか?」
名前…?
私の?
「…睦、」
名前聞かれた、よね…?
あってる?
よくわからないや。
目の前のこの人は、誰だっけ…?
「睦」
「え、はい…」
さっきまで知らない声だったと思うんだけど…
私の耳がおかしかったのかな。
あの爆音のせいで…?
「名前まで可愛いな」
フッと笑ったその声は、
やっぱりよく知る声だった。