第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
…僕の、相手…?
「…どういう意味だ」
「…あー、声変わったね」
ニヤリと笑うが早いかその鬼は
さっき指さした方向に向かって走って行った。
「待てこのやろう‼︎」
俺が何かを言わなくても
あの鬼は気付いてやがる。
確かに風は強いが
あいつの匂いがそんなものに乗ってくるか?
ここからの距離はかなりある。
それが、人外たる所以か?
「てめぇ‼︎ツブすぞ!」
「ムリムリ!君には
そんな美しくない事は似合わないよ!」
「黙れ!二枚目気取りが!」
「気取ってないよ、本当に二枚目なんだよ。
まぁ君も、劣ってないけどねー」
「劣ってねぇだぁ?生意気な。
大差で優ってんだよ!」
最初の枝から人家の屋根へ。
そこから、少し遠回りをしつつも
確実に睦の家へと向かっていた。
「君のそういうとこ好きだな」
「だから気色悪ィんだわ!」
「この僕に向かってひどいこと言うんだなぁ…
でも君の恋人はきっと
僕のこと気に入ると思うよ」
「何言ってんだてめぇ」
「もしかして君よりも
僕の方を選ぶかもしれないけど
ショックうけないでね。覚悟しといて」
辿り着く前にこのアホと決着をつけなければ
睦に危険が及ぶ。
あいつは鬼を惹きつける。
よっぽど気をつけていたというのに…
「待って、速い速い!
僕に追いつける人間なんているの⁉︎」
「おぉ、ナメんじゃねぇぞ!」
着実に距離を詰める俺を振り返り
色男鬼は大慌てだ。
何だろうなコイツは。
悲壮感がほぼねぇな。
楽しそうに鬼やってやがる…
そんな印象だ。
「てめぇ何処まで行く!」
「この良い香りの元まで!」
絶対ぇ行かせたくねぇなぁ!
一瞬風が止んだ。
あんなに強くて、ぬめったような風が
ウソのように…
不意に訪れた静寂が恐ろしい。
さっきまで響いていた、
咆哮のような声も、
仕舞いには美しいとさえ感じてしまった
あの金属を叩きつけるような音も…
すべて静寂の中。
この森閑をどうにかしたくて、
自分の中に巣食う恐怖を払拭したくて
私はそろりと立ち上がり、
ガラス戸の向こうを窺う。
「……?」
風もないのに、庭のロウバイが大きく揺れた…