第42章 おにごっこ 〜誕生日企画〜
宙返りをしてトントンと
俺から数メートル離れた鬼は
スッと姿勢良く立ち
9時の方向に顔を向ける。
顎を少しだけ持ち上げクン、と鼻をきかせた。
……何の仕草だ…?
「なんだか甘い香りがする…
甘い恋の香り…もしかして君かな?」
「気味悪ィこと言うな!」
「君は色男だからなぁ、しかも強い」
「それは確かだが、だからどうした…!」
攻撃再開。
飛びかかるのと同時に
鬼はそれと同じ距離だけ引いて見せた。
「まだやられないよ…!
だって君の恋人、興味あるんだ」
「そんなモン持たれちゃたまんねぇな、
余計に殺る理由ができた…!」
ゴオっと風さえ切って振り下ろした日輪刀を
キィンと高い金属音が受け止める。
三日月型の変わった小刀だ。
「ちょっと…!どんな力?
そんなんじゃ、女の子潰しちゃうよ?」
受け止めた小刀が
小刻みに震え出した。
「残念ながら女には優しいのよ」
「あっ、そ!」
最後の力、というように振り絞られた力で
日輪刀はようやく弾き返される。
が、押しやった程度の力、
反動は小さく俺には通用しなかった。
そのまま押さえつけるようにして
再び振り下ろすと体制を崩していた鬼は
大慌てで転がって逃げた。
…逃げ足は速ぇのか。
「あぁ、やっぱり良い香りがするなぁ…」
こんな時だというのに
目を閉じてうっとりと言いやがる。
「ンなヒマあんのかぁ!」
「うわ、っ」
ピョンと高く飛び上がり、
元いた木の、長い枝へと足を下ろした。
それを追って、俺も同じ枝に飛び乗ると
「ちょっと聞いて!僕は女の子がすきなんだ」
「……何言ってんだ」
アホはぶった斬る。
膝を折り飛びかかる体制を取る俺に
警戒心たっぷりにして、
「待ってったら!
君の恋人、あっちにいるでしょ!」
あっち、と指さされた方向には確かに
愛しい睦の家がある。
だが、
「いねぇし」
そんなことを教えるワケがねぇ。
何のためにそんな事をすると思う?
「えー?そうかなぁ…?
でも、違うとしても
すごく甘い香りがしてくるんだよね。
今日の僕の相手になってくれないかなぁ」