第8章 続
「ごはん…」
「おぉ、ごはん。食おう、ぜ。一緒に」
「…ん…」
俺の着物を握り込んでうーんと伸びをする。
「…朝ですか?」
目をこする。
「いや、夜だ。悪ィな…」
「…夜…」
睦はぼんやりしていたが、
はっと目を見開いて、がばっと上半身を起こすと
「帰らなくちゃ…っぐ…」
起き上がった姿勢のまま呻いて固まった。
「どうした!」
「いっ…たいぃ…」
痛い…?
色々思い当たる節がありすぎて申し訳なくなる。
「…大丈夫っです。帰…らなくちゃ
おばちゃんが…心配する…」
そこから這い出ようとする睦の
きれいな背中を、温めるように抱き込んで
「それなら大丈夫だ。
お前はここで預かると伝えてきた」
耳元で言うと、ぴたりと動きを止め、
唖然と俺を見上げた。
「体、つれぇんだろ?おとなしくしとけ」
掛けておいた自分の寝巻きを肩に掛けてやり
持ってきた膳を寄せる。
「お店まで行ってくれたんですか?」
「ん?あぁ」
「…私がここにいると?」
「言ったぞ。ホントの事だろ?」
「…何か、言ってましたか?」
「…えーと…そのまま預かってくれ、
と言われたか」
「…」
「…何かあんのか?」
「…いえ、
…大事な娘をこんな所によく預けるなぁって…」
「…おい、どういう事だ。
こんな所ってのは何だよ」
「あ、そういう事じゃなくて…」
「ああ?」
「私、おばちゃんに話しちゃったから…」
「あぁ、知ってる風だったなぁ。でも俺、
大いに信頼されてるからよ」
「…ヘェ…」
「何だおめぇ…何か言いたそうだな」
「当たり前ですよ。
次こんな事あったらもうムリですからね」
睦はキッと俺を見る。
「もう何もねぇよ。んな事よりも
夕飯、作ってってくれたぞ。
まだあったけぇから食ってやってくれるか」
「…いただきます」
そう言いながら膳を見つめた。
「おいしそうですね…」
何か様子がおかしくて、俺は睦を見つめた。
…だいたい想像はつくけどな。
「俺、コレ食った事ねぇよ?」
「え?」
図星だな。さすが俺。
こいつの考えてる事なんてお見通しだ。