第1章 嚆矢濫觴
夕方、私はあるお弁当屋さんに寄った。
「こんにちは!」
店内に入ると、エプロン姿のおばちゃんが、
「あら!睦ちゃん!」
嬉しそうに寄ってきてくれる。
「久しぶりね!元気にしてたの?」
「うん!おばちゃんもおじちゃんも元気?」
「ありがとう。元気にしてるよ。お店はどう?」
「うん、なんとかやってるよ」
おばちゃん、と言っても、この人はもう、
母親のような存在だ。
私が店を持てたのも、おじちゃんおばちゃんの
おかげなのだ。
「おう睦ちゃん!元気そうだな」
声を聞きつけたのか、店の奥から
おじちゃんも出てきてくれる。
「おじちゃん、久しぶり!
なかなか寄れなくてごめんね」
そう言うと、おじちゃんはおばちゃんの隣に並んで、
「何言ってんだ!
睦ちゃんが元気ならそれでいい。
楽しくやってるか?」
優しく言ってくれる。
「うん。友達も出来たし、
仕事も、大変だけど楽しいよ」
「そうかそうか。それなら良かったよ」
にこにこと微笑んでくれる2人を見ていると
心からホッとする。
幼かった私を引き取ってくれて、
まっとうに育ててくれた。
何の関係もなかった、他所の子どもをだ。
お店の手伝いをさせてもらったおかげで
料理も上手になったし、家事全般できるようになった。
おかげで私は、
こうして一人でもやっていけるようになった。
感謝してもしきれない。
私にとって、この上なく居心地がいい場所で
帰りたくなくなってしまいそうだ。
それを悟られるのが、何となく気恥ずかしくて、
「あ、ごめんね。暗くなる前に帰るね」
外が暗くなってきたのを言い訳にした。
「おう、そうか」
「またゆっくりおいでね?」
おばちゃんの気遣いに、
「うん、ありがとう」
私は笑みをもらす。
「じゃあ、おじちゃんもおばちゃんも、
おやすみなさい」
店を出ようとした所で、2人に呼び止められる。
「睦ちゃん!これ、
夕食の足しにでもして?」
「え?」
「おう、持ってけ持ってけ」
そう言って、
山のようなお惣菜を押し付けられる。