第1章 嚆矢濫觴
「こ、こんなに⁉︎いいの?」
「いいも悪いも、
お前小さいんだからしっかり食えよ!」
「小さいって…」
子どもじゃないんだから…。
2人を見ると、穏やかな笑みを浮かべている。
「ありがと…」
私は涙が出そうになって、
それを隠すように笑って見せた。
暗くなる前に帰る、
なんて言っておいて。
私は家の手前の、大きな河原に座り込んでいた。
川に、少し欠けた月が流れ込んでいる。
それを、ただ眺めていた。
傍らには、2人にもらった大量のお惣菜。
何となく、帰る気にはなれなかった。
あの2人と一緒に暮していた頃に
思いを馳せる。
私にとっても、見ず知らずの人たちだった。
それなのに、本当に良くしてくれた。
本当の家族のように。
こんな私に、良くしてくれたんだ。
おばちゃんは掃除、洗濯、繕いものから作法まで
出来の悪い私を相手に、
幅広く教えてくれた。
失敗しても笑い飛ばしてくれて、
根気強く教えてくれた。
おじちゃんは色んな料理と、楽しい遊びを。
私なんか死ねばいいと、本気で思ってた。
そんな私を、
救い上げてくれた。
おかげで私、生きている。
楽しく、生きてるよ。
2人の笑顔を思い浮かべると、
胸の奥があったかくなる。
優しくなる。
同時に、涙があふれる。
ふと、目蓋を上げると、
サッと私の顔に影が差す。
見上げると、
「どうした睦」
……。
私はもはや、言葉も出ない。
無意識に
呆れたような表情になっていたであろう私に、
「何だ」
と顔をしかめる。
「宇髄さん、ヒマなんですか?」
「ヒマなわけねえだろ」
「仕事とかしてるんですか」
「たりめぇだ。昼間のうちに偵察は終わらせた」
偵察…。
「睦、その荷物は何だ」
宇髄さんはお惣菜を指差して訊く。
「あぁ、これは、私の命です」
「命?」
「そう、命」
これのおかげで、私は生きているのだから。
「ふぅん…」
宇髄さんは、よくわからないというふうに頷くと、
私を見て、
「で、何で泣いてんだ」
心配顔で訊いてくる。
なぜ私が泣いているのかが一番気になっていたに違いないのに
荷物の話しを挟んでくる辺り、
この人も素直じゃない。それとも、
私を気遣ってくれたのか。