第41章 輪廻 〜if〜 後
「無の境地ってこと?怖い怖い」
キッチンに入り、
先生は私をストンと床に下ろした。
「邪念だらけだからな」
「勘違いしてごめんね」
私に触れないのは、私のため。
触れたかったのを我慢してくれていた。
ただ憐れみの目で見ていたわけでもなければ
興味がないわけでもなかったの。
「んー?あー、…まぁ、自業自得だ。
睦が謝る事じゃねぇよ」
よしよしと頭を撫でて
先生はお鍋をIHにセットした。
「えっ⁉︎お鍋で作るの…⁉︎」
「スープだぞ?フライパンじゃねぇだろ」
「違う違う、
インスタントのヤツじゃないのかってこと」
「お前にそんなモン出すワケねぇじゃん。
この栄養失調娘が。
ちゃんと野菜入りの玉子スープですー」
「栄養失調じゃないよ!」
「昼飯が菓子パンばっかだったくせに。
あんなモン、メシの代わりにはならねぇの」
「菓子パンだって栄養入ってるもん。
あのパン、乳酸菌とカルシウム入りなんだから」
「やかましい、
そんなサプリみてぇなのじゃなくて
ちゃんとした食事を提供してぇワケ。
別に悪ィって言ってんじゃねぇんだけどな、
そういうのもたまにはアリだとは思うが
毎日はだめだ」
「…はぁい」
「よろしい。では睦くん、
冷蔵庫からほうれん草を取って来たまえ」
「はいっ」
「あ、ベーコンと卵もだ」
「はいはーい」
冷蔵庫に向かって軽やかに足を踏み出した私は
なんだか心が軽い事に気がついた。
自分に素直にいられるのって。
何かを隠さなくてもいいのって。
自分を偽らなくてもいいのって。
なんてなんて、楽しいんだろう…。
「頼むから不死川にだけは見つかるなよ。
お前がいる事バレたら
俺何言われるかわかんねぇからな…」
先生がそう言い残して
この美術準備室を後にしてたのは
ほんの10分前のこと。
月曜日の放課後。
先生は授業後の雑務をしに
職員室へと戻っていった。
思いがけず3日になった
夢のような連休を過ごし切り、今だ。
先生は何処かへ連れて行ってくれたがったけど
私はあの家で過ごしていたかった。