第41章 輪廻 〜if〜 後
「私の世話焼かないで!」
玄関のドアを開けてすぐ。
普段ならリビングへ続く廊下が見える所。
それを塞ぐように睦が立っていた。
しかもこの上なく不機嫌な様子で。
ここは『おかえり』っつって
にっこり笑ってみせるとこだろうに。
「ただ、いま」
わざと押し付けるような言い方をしてやると、
「……おつかれ」
見事にぶすーっとした顔になった。
……。
「そんな事より」
さっきの続きを話し出した睦をよそに
靴を脱ぎリビングへと向かう。
その背中を追ってちょこちょこ走って来た。
「私の事、学校ではほっといてよ」
俺の後ろをついてくる睦。
子犬みてぇだ。
あの場で口にできなかった不満を
2人きりになったタイミングで
待ちきれないようにぶち撒ける。
「わかったわかった。もうなんもしねぇよ」
そうだなぁ…
もう手遅れだと思うけどな。
歯車っていうの?
動き出してると思うから。
お前のクラスメイトたちの中で。
「今まで通りでいいの。
あとちょっとの時間、静かにすごしたいんだ」
俺の上着の裾をきゅっと掴んで
睦は声をワントーン落とした。
振り返り肩越しに様子を窺うと
睦は少し俯き気味で
とても不安そうに瞳を揺らしていた。
「先生がいてくれたらそれでいいから…
他の人と仲良くさせようとしないで」
………
俺は言葉も出なけりゃ口も塞がらなかった。
こいつ、
何の策略も姦計もなくこんな事をしてるのか…?
素でやってんのなら危険だ。
男なんだけど、俺も。
かなりの確率で勘違いするけどソレ。
うち帰って来てホッとしてるとこなんだよな。
そこにそんな甘えたこと言われると……
参ったな…。
「…楽しくなかったかよ?
あの後も何か話してたじゃねぇか」
こいつがそんなつもりない事がわかっているから
敢えて深追いはしないでおこう。
俺の方が調子狂わされてどうする。
ちょこちょこ可愛く見えてしまうのは
こいつの境遇があまりに惨烈で
…俺も、アレだ。いろいろあんだよ。くそぅ。