第41章 輪廻 〜if〜 後
「だってお前、今ゼロなんだろ?
これからひとつずつ、
楽しい事を見つけていけるんだ。
それすげぇ事だろ?」
「楽しい事がいっこもない事に対しては
何も思わないの?」
「思わねぇな」
「なんで?ヘンでしょ、そんなの」
「変じゃねぇよ。
お前はそういうヤツだってだけだろ」
「いいんだ、こんなんで」
「いいも何も、それが櫻井睦だ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。で、今日はどうする?」
先生はスパッと話を切り替える。
いつも強引で唐突だ。
「何の事?」
「寝る場所の事」
「先生ベッド」
「お前ソファ?」
「うん」
「即答だな」
「あのソファきっと気持ちいいよ!
肘掛けを枕にするの、絶対ちょうどいい」
昨夜は先生がベッドを譲ってくれたから
今日は私がソファの番なのだ。
でもあのソファは絶対気持ちいいと踏んでいる。
程よい硬さとあの絶妙な広さ。…狭さ?
「睦なら足も伸ばせそうだな」
「……うん」
「毛布待ってけよ」
「うん」
「…何だ?」
「ううん」
気づいてないのかな。
たまーにさ。
ほんとたまに。
50回に1回くらいの割合で
私のこと名前で呼ぶよね。
その度にドキッとする…
先生が、違う人みたいに思えるの。
「でも普通ベッドを選ばねぇ?
せっかく選ばせてやってんのに」
「あのベッド広すぎるよ。
あんな広いとこ落ち着かない」
「お前ちっせぇからなぁ」
「うるさいな。関係ないじゃん」
「だって俺、広すぎるなんて思わねぇもん」
「そんなのあのベッドが先生のだからでしょ。
自分で居心地悪いベッドなんか
選ぶわけないよ」
「まぁな、そりゃそうか」
笑った先生はふと振り返り鍋を見る。
くつくつと優しい音が溢れる鍋。
先生につられて私もそれに目をやった。
先生が作ったシチュー。
先生の魔法がかかったシチュー…
「早く食べたいな…」
と、
そう言ってしまって…
くるぅりと時間をかけて振り返った先生と
しっかり目を合わせた。
お互いに見開いた目…
この私がそんな事を言うなんて
そんな思いだ。
自分でもびっくりしすぎて声が出ない。